エピソード7 新しい風
「改めて……アルフレッド……っていいます。団長候補にならせていただきました」
「わしはカヤじゃ!軍師候補じゃ」
今は改めて自己紹介を、ということで、六人丸椅子に座り、円になって話をしているところ。
「……あんたが団長であんたが軍師……」
そういうシエルさんの表情はかなり厳しい。
「ああ……終わった。なに、あんたらを候補にしてあげたのはあー?それともまさかクーガ?」
終わった、という言葉が、僕らに向けられてるのは明白。
確かに僕らが新しい団長、軍師ですっていってきても、そう思われて仕方がないんだろう。
察することはできても傷ついてしまう。
「クーガさん……です」
そう答えるとシエルさんは厳しい表情をさらに厳しくさせる。
「クーガがねっ。それは何か考えがあるのではないかな、シェール」
「そう思いたいわよ……」
絶望した表情でそういうと天井を見上げるシエルさん。
なんだか、申し訳ないな。
自分の居場所ができたってぬか喜びしていたけど、それを不快に思う人がいるなら僕はスッと身を引きたい。
そんな思いで一杯になる。
「まあ、とりあえずはあたしらも自己紹介しましょ」
仕切り直しというようにそういうボブさんに、シエルさんもうなだれた様子ながら前を見る。
ちょうど前にいるのは僕なのでかなり、怖い。
両隣のカヤとあーちゃんさんは相変わらずという感じで、カヤはボーッとしていて、あーちゃんさんは足をブラブラさせて楽しそうにしている。
いいな。
どんな時でも自分らしくしていられる人って、なんてポツリと思う。
「まずはあたしね。あたしはボブっていうの。俗に言うオカマよ。あなたたちがクーガに会ったんならわかると思うけどあの子もオカマでしょ?」
「そうそう。こいつら二人で、黄昏の平野団の二強っていわれてんのよ。」
「そうよ。でも、あっちは実は作ってるカマだからね。」
不満げにそういうボブさんに苦笑いになる。
作ってるオカマってなんなんだろう。
「ボブっちいつもそれ言うよね〜。なんかクーくんに恨みでもあんの?」
楽しそうにそういうあーちゃんさんにボブさんは何故か大きなため息をつく。
「ほんっと、あなたは鈍感ね。クーガがオカマのフリしてんのはあなたの為な」
「のんのんっ。人の秘密をたやすくバラしてはだめさっ」
ボブさんの隣で人差し指をふり、そういうその人。
「まあ、そうね……。ま、結局のところ、あたしはガチのオカマだから、アルフレッドくん」
そういわれて、ボブさんの顔を見たらウインクされた。
何故か鳥肌がたった。
「じゃ、次は僕かなっ。僕は見ての通りの美男子で、そこらでも知らない人はいないという」
「はいはい分かったから先に名前いいな」
「おう、シェール……。相変わらず冷たいじゃないのさっ。ま、そんなところも君の魅力かもねっ。もちろん僕の魅力の前では霞んでしまうけどさっ」
「……」
いよいよ表情が鬼のようになってきたシエルさんは躊躇いなく思い切りその人の脛に蹴りを入れる。
「おう……!この痛みも僕を美しくする……そう言いたいんだねっ」
「……とにかく、名前をいえっての」
「おう……、そうだね。名前はアーシェ。アーシェ・ナルティシスムさ。自由に呼んでくれて構わないよっ」
「はい、で、私はシエル。」
アーシェさんが喋り終える前に、かぶせるようにして短くそういうシエルさん。
「シェール……」
ポーズを決めたまま動きが止まるアーシェさん。
そんな一連の流れにどこか呆然としていると隣から声が上がる。
「ほう。して、一番重要なところが抜けておるのじゃが、わざとかの?」
少し意地の悪い言い方。
「あんたが本気で軍師になりたいんならそれぐらい当てて見せなさいよ」
先程、手当をしてくれたときとは別人のように厳しく冷たい声音でそういうシェールさん。
だけど、カヤの瞳は変わらずまっすぐ何かを見据えている。
そして隣にいる僕は全く話が見えていない。
「よかろう。まず、シエル。お主はパティシエじゃろう。もしかしたらシェフもこなしているかもしれん。黄昏の平野団の普段の食事はもちろん、戦の際の癒しのアイテムも作ってるのではないかのう。そしてボブ。お主は薬剤師じゃろう。それにプラスしてスパイ活動もやっておるかもしれん。最後にアーシェ。お主は魔物使いじゃろう。そして全員が並大抵ではない剣術槍術を扱える……といったところかの」
カヤがそう言い終えたあと暫しの沈黙が訪れる。
そんな沈黙を破るように、荒々しく頭を掻き毟るシェールさん。
「……あ〜あ……」
やがて、ぽつりと、こぼすように声をもらす。
「完敗。軍師、ね。軍師ってみんなこんななわけ?なんかイラっときちゃうわよ」
どこか空を見つめてそういうシェールさんに、アーシェさんはどこか悲しげな表情をみせる。
「私見は控えた方がいいのではないかな、シェール」
「はいはい。わーったわよ。んで、軍師さんっていうあんたの年齢は?どうせその感じだとあのクソガキとおんなじような類なんでしょ。」
「あのクソガキというのが誰のことをいっているのかはわからないが……。わしの年齢は秘密じゃよ。いえるのはお主よりは年上ということぐらいかの」
「やっぱあのクソガキと同じ類じゃないの。」
心底うんざりした様子でそういうシェールさんの肩をポンポンと愉快そうに叩くのはあーちゃんさん。
「まあまあ、いいじゃないか、シェ姉。これからきっと楽しくなるよ」
「楽しくなるかなんてどうでもいいわよ」
ピシャリと、冷たい声音でそういうシェールさんに思わず肩をビクリとさせる僕。
「シェール」
「シェちゃん」
「シェ姉」
三人からなだめるような声音で声をかけられ、シェールさんはまたうんざりしたようにため息をついた。
「おふざけしてる場合じゃないんだっての」
一言そう呟くと立ち上がり、部屋を出て、バタンッとひどく荒々しく扉を閉める。
「まあ、シェちゃんのことは気にしないで。普段はああじゃないんだけど、今は特段ピリピリしてるからね」
そういうボブさんをみて、案外ボブさんが一番穏やかで普通な気がしてくる。
「ほむ。して、先ほどのわしの答えはあたってたのかの」
シェールさんのことなんて何も気にしてないような口調でそういうカヤにはほんと、感心することしかできない。
「まあ、ね」
どこか複雑な面持ちでそう答えるボブさん。
「して、主らの先代の団長、軍師がいなくなってから時はさほど経っておらんのかの?そしてなぜ、いなくなった?」
そんな言葉にあたりを重い空気が流れる。
薄々感づいてはいたけれど、カヤって頭は切れるけど人の感情に無頓着すぎるというか空気が読めなさすぎることころがある。
「カヤ」
慌ててそう声をかけるもそれを遮るようにあーちゃんさんが口を開く。
「いなくなってから時が経ってたとしたらなに?」
笑顔も、なにもない、そんな表情でそういうあーちゃんさん。
怖い。
「それって、カヤちゃんに関係ある?」
「あーちゃん」
強くそういうあーちゃんさんを制するようにボブさんが声を上げる。
あーちゃんさんは不満そうにボブさんを睨む。
「その話を本気で聴きたいなら、まずはあたしらの信頼を勝ち取ってみたら?軍師になりたいっていうぐらいなんだからなにか作戦があるんでしょ」
そんなボブさんの言葉に、カヤは不敵な笑顔を浮かべながら頷いた……。
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