エピソード6 お菓子と鏡と筋肉と

「おっ!あったーっ!ようし、着陸するよーーっ!」


そんな声がどこか遠くで聞こえた、そのすぐあと……


下を見ればすぐそこに地面が迫ってきていた。

やっと地に足をつけられる、そんな安心感で気が緩むと共にあーちゃんさんの足をぎゅっと抱きしめていた腕の力にも限界がきて、あと少しで着陸というところで手を離してしまう僕。


「ゔっ」

自分でも聞いたことない低いうめき声をあげながら顔面から着陸する。

砂利が一粒一粒強く顔に刺さってくるような刺すような痛みが顔と、顔とほぼ同時についた体全体に走る。



その後なんとも言えない、じわじわとした痛みが顔と体に広がる。


「な……なんとか無事着陸なのじゃ……」


近くではそんなカヤの声が聞こえてくる。


「おー!やっぱり、ここだん、ね。やった!」


あーちゃんさんの元気な声も、今は耳がいたいだけだ……。


「ってあれ……れええ?!アル!大丈夫か!」


どうやら僕が着陸前に手を離してしまって落ちたことには気づいていなかったらしい。


突っ伏したままだった顔を上げるとすぐそこに大きな瞳をさらに大きく見開いたあーちゃんさんがいた。


「ま……まあ……大丈夫ではないです……」


「だよねえ?!鼻血でてるし顔の皮すりむけちゃってるもんねえ?!」


「アルフレッド……顔面着陸とはなかなかじゃな」


そんな声のする方向をみれば、カヤがフラフラとした足取りでこちらに向かってきていた。


「カヤちんもひどい状態じゃん!どうしたの、二人とも!」


それは、あなたの飛行が凄まじく豪快だから

カヤは酔っちゃったんだと思いますよ、といいたいものの、そこまでの気力が残されていなかった。


「とりあえず、シエ姉んとこいこ!そうすれば手当てしてくれるし服も綺麗にしてくれるはずだよ」


そういわれて返事をする前に、あーちゃんさんが僕の脇に手を入れて、そのまま体を持ち上げる。


「って……ええ」



でた声はもういい加減体力もそこ尽きていて非常に力無いものだ。

だってこんな……


「おお!姫様抱っこか!よいのう。よいのう」


「カヤちんも、空いてる背中に抱きついてくれていいよ」


「よいのか!ありがとうなのじゃ!」


「いいってことよ!さ、アルもいくぞ!」


「……はい」


もう、抵抗することもバカらしくなって来てしまって、僕はただ、そう返事をした……







「で、あんたはまた何をしたわけ」


「何もしてないよ〜。それよか、シエ姉、顔にスリスリしていい?」


「だめよ。今忙しいってわかんない」


「くぅ〜っ。そういう冷たいいいかたがそそる!」


「何言ってんだか……。にしても、君、大丈夫?痛いなら痛いっていいな。何も言わないから怖くなってくるわよ」


サバサバした雰囲気で、少しきつめなその人は、慣れた手つきで怪我の手当てをしてくれる。



ルビー色の少しつった瞳。

瞳と同じルビー色の髪の毛は頭の上できつくまとめ上げられている。

全体的に顔立ちが整っているものの少々キツそう。

そんな印象の女の人だ。


あーちゃんさんを形容するのに最も適しているのが可愛いだとしたら、この人のそれは綺麗、だと思う。


「なによ少年」


そんな矢先、不意に目線がかちあって、心臓がどきりと飛び跳ねる。

そのままなぜか見つめ合う。


や、やっぱり綺麗な人だな。

緊張する。

ドキドキと心臓がたかなる

なんで視線を晒さないんだろう?

僕もだけど、でもそれって

「気持ち悪いからこっちみんな」


「…………」


「よしっ。で、あんたはどこケガしたの」


最後に手当てしてもらったところをバシンッとたたき、たちあがるその人。



……なんか、虚しい。


「ん?うむ……わしは少々膝を擦りむいてしまった」


どこかボーッとした様子のカヤがそういうと

その人はまた、テキパキとした手つきで救護道具入れの中から必要そうなものを取り出す。


「ほらだしな」


そういわれて、恐る恐るという感じで服の裾をめくり、膝っこ像をみせるカヤ。


「ちょっと染みるよ」


「うっ」


膝の流血しているところに湿った布を当てられ顔を歪めるカヤ。


大丈夫かな。


カヤの実年齢がどうであれ、やはり見た目は

子供なのだから心配になってしまう。


と、そんな矢先

「おう……女性の悲鳴が……聞こえる……」

新しい声が聞こえて来て、ハッとする。


「うわ……面倒なの来た。皆んな、無視して」


「え?……えーと……」


突如現れたその人の姿を発見すると共にシェールさんのその言葉に困惑した声を上げる僕。


優雅にポーズを決めているその男の人は、なんというか、自分に酔っていそうな、そんな雰囲気の人だった。


でもよくよく見ればかなりの美男子で、薄い金髪はかっこよくアレンジされてるし、手入れにかなり時間がかけられてそうで、輝いててサラサラしてる。

肌は陶器のように白く滑らかで、晴れた日の空の色をそのまま写したような瞳を縁取るまつげは長くてびっしりしてる。


また、よく見ると、瞳はかなりのタレ目でそれによって優しい印象を受ける。


唇は男の人なのにチェリーのような色をしていて艶めいていて、思わず目がいってしまう。


まさに甘いマスクのイケメン……

そう思ったんだけど、唯一……


「わかるわよ、アルフレッドくん。こいつ、顔はいいけど、短足なのよ。触れないであげて」


「おう!おうおうおう!シェール!それはあまりにひどいんじゃない?そしてもうすでに触れているしねっ」


なんとも言えない変わった口調でそういうその人にポカンとしてしまう。


クーガさん、チーくんさん、あーちゃんさん

そしてここで出合ったシエルさん、この男の人。


みんな、城の中では見たことなかったし想像もできなかったような人たちで、本当に驚かされる。


「んでもってこいつ、自分のこと大好きなやつだから」


「おう……シェール、そこまでいってしまうのかいっ」


「そういやボブは?あいつ変な薬作ってる途中でしょ?それに使ってる器がこっちで入り用だからとっとと返して欲しいのよね。」


「ボブは確か花を摘みにいくといっていたねっ」


壁によりかかり髪の毛をクルクル指に巻きつけながらそういうその人。


本来ならこんな美男子がこういうことをしていれば、さまになって当然なんだろうけど、全然そうならないのはやはり、足の問題……だろうか。


どこか滑稽にも思えてしまう。


「あたしの名前、よんだかしら」


そんな時、また新しい声が聞こえてくる。

見れば筋肉隆々の男の人がいた。


その人は僕の腕の十倍は太い筋肉質な腕をしていて、肌は黒く、服はピチピチで、なんとも強烈なインパクトがある人だった。



「ボブ、あんたちょうどいいときにきたわね」


そういうと立ち上がり、カヤに「これでもう大丈夫よ」というシエルさん。


「ありがとなのじゃ」


まだ痛そうにしながらもそういうカヤには、本来は自分より上の年であることも忘れて撫で撫でしたくなってしまう。


「あんたが使ってるあの器。こっちでも使いたいからはやく終わらせてくれる?」


「ああ、あれね。オーケーよ」


あまりにも似合いすぎてて今頃気づいたんだけれど、この、ボブと言う人もクーガさんと同じく女口調だ。


「で、この子たちはなあに」


「ああ、この子ら?この子らはまたあーの暴走に巻き込まれた可哀想な子たちよ。」


そう答えおえるとこちらを見て、

「ちょっとゆっくりしたら、自由に帰りな」

というシエルさん。


だけど、すぐにハッとした表情になる。


「そういや、あーは?やけに静かだと思ったらあいつまた……!」


そういうとすぐさまどこかにかけていく。

それから少しとしないで、あーちゃんさんの首根っこを摘みあげた状態で現れるシエルさん。


よくみるとあーちゃんさんの顔にはべっとりと生クリームのようなものがついてる。


「また摘み食いしたのね、あーちゃんたら」

ボブさんがまったくもうといった感じでそういう。



「あーは本当にシェールの菓子がすきだねっ。まあかくいう僕も、自分の次には好きだけどねっ」


決めた感じでそういうその人には思わず苦笑いになる。



「だってさあ、シエ姉のお菓子めちゃうまなんだもんさ。仕方なくなあい?」


「仕方なくない!ったく。あんたのせいでまた一から作り直しよ。ほんとふざけんなっつうの」


そういうと荒々しくあーちゃんさんを降ろすシエルさん。


「ほら、この子らにも謝りな。そのうち帰っちゃうから」


「え?帰っちゃう?帰っちゃわないよ〜。だって二人はうちの新しい団長と軍師だもん」



そんなあーちゃんさんの言葉の後、暫くの沈黙が訪れる。



そして……


「はああっ?!」

シエルさんの悲鳴が、小さな小屋の中にこだました。








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