6-2

 少し甘い夢を見すぎていたのだと思う。ユウが用意してくれた私の部屋は狭いけれどとても安全で、葉はときどき足りなくなるけれど必ず彼が運んで来てくれて、彼は優しいから、恋しい自然に帰ることはいつか必ずできるのだと。だからユウとの楽しい生活に何の不安もなかったの。心地よい風に揺られて――。

(ああ。あのひの、おぞましさといったら!)突き刺さる針に、灯されるわたしではない存在。空を奪われたことを識ってから、何を考えたのかをもう覚えていない。気が付いたら人のかたちをとっていて、目からこぼれる水をただどうしたらいいかわからずに拭っていた。


 かえして。かえして。


 吹き出してきた怨嗟のような色をしたもの。それが何に向けられているのか、ふと途方に暮れて、そうして背筋に冷たいものが走った。

 その先に浮かんだのはユウだったから。

 翅をおとしたと気付いたときよりももっと怖かった。まるで、そう、彼を憎んでいるようなその思いつきは、涙すら止めてしまったわ。やめて、と自分に向けて呟いて、肩を抱いて、これまで過ごしてきた日々を丁寧に思い返した。――戻ってきた彼と目が合ったときわたしはとても安心して、そのことにも安心してしまうくらい、わたしにとってユウは大切な人だったから。

 やがて少しずつ冷静を取り戻す。あのひとは死神ではなくて母親、わたしに宿った火はこれから繋がっていくあらたな生命、ユウがここにいて、ねえ、何も不幸なことなんて、ないのよ。


「わたし、いちばん綺麗なさなぎをつくるわ。」


 だから見ていてほしいと言ったらあなたは泣きそうになりながら頷いてくれた。

 ゆりかごができたら、わたしは子供を抱きしめてあげて、もうユウの元へは現れないでおこうと思う。きっと死ぬ間際は苦しい顔をみせてしまうから、どうか、彼の中に遺るわたしは幸せな姿であるように。

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