6-1
「…切菜、……ねえ、…」
蛹化が済んでしまうと沈黙した切菜の入ったケースを見つめながら、考えた。アゲハヒメバチに寄生された幼虫っていうのは、蛹になった途端に死んでしまうものだったのかと、じゃあどうして彼女はそれを教えてくれなかったんだろうと。昼のはずで空も晴れているのに部屋は妙に薄暗くて冷たいような気がした。
どうして、彼女がこんなふうに消えてしまうんだろう。徐々に悔しい気持ちが湧き上がってきて、自分の行動を思い返し、どうしたらこの事態を防げたのかと思考を巡らす。窓は閉めておけば蓋は閉じておけばでも本当は最初から閉じ込めなんてしなければ?
そもそも自分が一体どれだけの蝶の死を見送ってきたかを思い出してはっとする。俺がいるからいいだなんて言った君から、俺が空を奪った可能性は。可能性? まさか、そんな、やさしい言葉ではなくて。(――つみ。)罪。そう、名の付くもの。重苦しい単語に至った瞬間、これまで感じたことのない、とてつもなく凶悪な罪悪感に襲われた。
(だって、羽が生えたらあそこは窮屈すぎるわ)(わたし、蝶になるのよ)
空に舞う、ひらひら、ひらひら、ひらひらと。そう信じていたのは誰よりも切菜だったはずだ。こんな狭い場所に閉じ込められて、(へいきよ)平気なはずがなかったんじゃないのか。
なんで大丈夫だっていう彼女の言葉を鵜呑みにしたのか、その答えは簡単だった。どうして木々の間に暮らすのが自然な彼女をつかまえたままだったのか、その、答えも。
ただ囚われていて、抜け出そうともしなかっただけだった。俺が、ひとり、七花っていうゆめに。
切菜のことなんて何一つわかってなくて、わからないまま、彼女のゆめは犠牲にしたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます