3-1

 切菜とは家の中で過ごすだけじゃなくて、一緒に買い物に出たりもしてる。でも彼女を連れ出してそれからちゃんと帰ってくるのはとても難しくて、


「切菜ぁ」

「待ってユウ、あと少しだけ、一回だけ」


 たとえばスーパーに入れば玩具売場に留まってしまうし、いないと思ったら試食コーナーを渡り歩いてるし、スーパーに辿り着けてるならまだよくて、道中いろんなものに目移りしてる場合が大抵だ。一回目の外出はそれではぐれて見つけるのに苦労したから、以来俺は彼女の一挙一動には細心の注意を払っている。……払っているつもりなんだけど、どうもふとした瞬間に突拍子もないことをするから、やっぱり凄く大変だった。

 今回は見つけた公園の遊具で遊んでいる。さっき散々ブランコに乗って、今は滑り台。同じくらいの見た目の女の子が公園ではしゃぎまわってると思うと変な気持ちになるけど、それでも違和感がないくらい切菜は無邪気で愛らしいかおをしてるから止めるタイミングを失ってる。

 高い位置から無事に地面まで滑り降りてきた彼女は満足げにとんと足を鳴らして立ち、こちらを向いてにこりと微笑んだ。風が吹いて黒髪が揺れる。綺麗だなと思った。

 あ、と零した音を聞いてまた何か見つけたのを知るけど、とくに駆け寄ったりする様子はみせず、ただ「白詰草」とつぶやいただけだった。視線の先をたどると確かにクローバーが群生してて、俺はそれに歩み寄る。花冠ってどうやって作ったっけ。考えながら白い花を摘み取ってゆく。

 出来た輪を見せると、珍しく静かな、けれど興味深そうな様子で切菜はそれを見つめてすごいと一言。反応がいまいちだからあんまり面白くなかったかなと思いながらそれを頭に乗っけてやった。静かに彼女の指先が冠に触れる。かわいいよ、と言ってあげて、直後に今のは気障っぽかったような気がして恥ずかしくなる。

 切菜はぽうっとしていたけどやがてとても幸せそうな笑みを浮かべた。


「ありがとう、」

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