第六節 白む華


“見ていてね”



決意と慈愛とが背反するかお


清らかな瞼を閉じてひとの姿をやめてしまった彼女は



“いちばん綺麗なさなぎをつくるわ。”



だから、


見ていて と。



愛する子の寝床を整えるようにゆっくりと丁寧な蛹化


どうしてアゲハヒメバチは

宿主に繭を編ませるのだろう


自分の棺を用意するように、ゆっくりと、丁寧な、



(やめてよ)


(やめてよ切菜、)



喉まで競り上がってくる言葉が誰のためにもならないような気がした


彼女が願うから、目を逸らさずにその営みを見ているしかなくて



あんなに愛らしい姿でせっせと糸をはく


あんなに綺麗に透き通ったさなぎになる


そこから、あんなに大きい翅をのばして


空を舞う、ひらひら、ひらひら


風に靡くあの髪のように


ひらひら、ひらひら



ひらひら、






―――やがて透き通ったみどりのゆりかごがひとつ。



黒点を伴った蛹は、



語りかけても返事をしなかった。



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