第四節 宿り日


同じように日が過ぎた


あっというまに切菜は五齢まで成長して


もうじき蛹化するからか、なんとなく二人してそわそわしている、そんな時期



脱脂綿を忘れて蓋をはずしたケースを離れる


開けたままの窓もそのままに


階段を降りて




(空を舞う、ひらひら、ひらひら)




戻ると


さっきまで幼虫の姿でいたはずの切菜のかげ


どこか切迫した雰囲気にどきりとする


声をかけても返事はうつろで


気のせいにも見えた 逆光だったから


でも



「切菜…、ケースの中綺麗にするから、そこのいて」


「…………厭、」



弱々しい声と曇った表情


ケースに近づこうとすると、切菜はそれをやわく遮った


嫌な予感がしてもう一度名前を呼ぶ



やがて覚悟をしたようにゆっくりと傍に避ける、彼女は、




「ま……って、よ、」




針が、緑の脳天を射ていた


赤い蜂 その名前を俺は知らなかったけど



……知らなかったけど、



「……ユウ。私、へいきよ、……ユウがいるもの」




その“母親”が飛び立つ




いつかの言葉を頼りない笑顔で繰り返す切菜は



彼女は




もう空を飛べない。



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