7-1

 逃げ出した先には消えそうな空があった。不自然な真緑をした葉々が、散るように、枝の先で揺れている。まだこんな時期なのに散るわけがない。木漏れ日がきらめいているけど、きれいだなんて思えない。

 あれじゃあ、もう、話にならない。羽化どころじゃない。だって外で見ていた僕が「しんだ」って思ったくらいだ。(いきてるよ…)まだ生きてる。

 じき死ぬけれど。


 ひとつの木に寄って、自分の身を抱いて座り込む。寒い。こわい。何か、目から水が落ちるのを感じる。もっとナナと一緒にいたい。

 もっと。

 もっともっともっともっともっともっともっともっと、


 ずっと…。


 ――目の前があまりにしろくて、それが普通じゃないことに気付いて、僕は無理矢理立ち上がった。ナナのところに帰ろうと思った。ナナといっしょになりたいと、考えてた。

 はじめはあんなに嫌いだったのにね。でも、嫌いだったころはまだナナのこと、知ろうと思ってなかったから。今は知っちゃったから、きっとこんなに好きなんだ。

 消えるなんて嫌だ。


(ねえ、僕を、生かして…愛して、ナナ……)


 吹いた風はゆるやかだったけどどこか冷たい。もしかしたら僕一人が寒く感じてるだけかもしれない。見上げると相変わらず空は霞んでいた。

 思い起こす。

 昼の窓辺も、夜の星月も、彼女のすがたも、こんな空でさえも、

 今、きれいだとしか思えない。

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