6-1
目覚めた彼女は、いまに僕のものになる。
誰でもいい。他の人間に寄生して、僕はヒトになる。そしたら文句ないよね、果楽。君みたいにすぐ死んだりしないからずぅーっとナナといられるもの。
「それっ…」
ナナはしばらく寝起きでぼうっとしていたけれど、箱がないことに気付いたのか少し身を強張らせて、試しに言葉を掛けてみたらそんなふうに、縋るような声を向けてきた。
自然と笑いが込み上げてくる。
「必死だね。そんなに大事?」
「返して!」
「もしかしてさぁ……これ? ナナの“好きな人”」
「あなたには関係ない!」
「あははっ! 本当なんだ。おかしいよ、虫を好きになるなんて…。――僕が治してあげようか。ナナのお病気」
そう言えることがたまらなく気持ち良かった。苦しそうなナナの顔が、可哀相でかわいい。頬をなぞったときと同じように見える。でも、もう拒ませてなんかあげないからね。
だから、
「まずは……忘れさせてあげるよ」
形見なんてもういらない。
僕だけ見ていればいいんだもの。
蝶を潰してしまおうとした。箱を振り上げて、たたき付けて壊してしまおうと思った。だけど悲鳴がして、ナナが僕を突き倒して、何か音がして、嫌な痛みが体中を駆けた。
身体を起こしたときに、同じくらい嫌なものを見た気がする。(しんでる?)誰が、(さなぎ)こんな、(ぼく、が?)
吐き気がした。僕は何か叫んで、その場から逃げ出した。
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