5-1

 そもそも僕はナナのたいせつな“カラ”のことなんて何一つ知らない。知らないけど、僕はその、僕と同じ名前をした奴が好きになれそうにない。それよりもずっと、僕を拒んだナナのことが許せないでいる。

 でもいい。だったら壊してでも、奪ってしまえばいいだけだもの。


 ――それからずっと気分がよくない。また会うのも、外に行くのも、他の何をする気も起きなくて、そのまま二日経った。

 三日目の昼下がり、今日もナナに会うのはやめようかと考えていたときに声が聞こえてきた。から、と呼ぶような呟き。それと、から、と確かめるような呟き。多分、どうせ、呼んだのは僕じゃない方のカラだ。なんだかもやもやして今日はぜったい会わないって決める。

 でも、時間が経つにつれてだんだん気になってきた。今までナナは、ひとりのときでもあんな独り言を言ったことはなかった。だったら何かきっかけがあったのかもしれなくて、それが分かれば少しくらいそいつの事を知ることが出来るんじゃないかって。

 さっきのはちょっと、子供っぽかったな。思い直してひとがたをとることに決める。


 ナナは、眠っていた。傷付いたような弱々しさで、僕はふいに死んだ宿主のことを思い出しかけた。いつもと違って横向きに眠っていて、その腕に抱かれるように、みたことのない箱がシーツの上に置いてある。

 覗き込んでみると、それは蝶だった。茶色を切り取った中に空があるような翅をしてた。(……“から”、?)僕にはナナが、この蝶をそう呼んだように思った。僕は箱を取り上げる。裏を返してみる。

 果・楽。そんなふうに、綴られていて、

 蝶の方が好き。守る。片思い。僕は蝶の、敵だから――。

 今まで考えもしなかった。

(もしかして、君は)君の好きな人は(この、蝶…?)


「…はは…あははっあははははは…!」


 なあんだ、そっか。そうだったの。

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