4-1
凄く暑かった。窓を開けても全然涼しくならなくて、気が紛れるものが欲しかった。僕にとってそれはナナとの会話くらいしかない。だったらたまには思い切り傷付けてやろうと思ったつもりでいて、本当のところがどうだったかちょっとよくわからないでいる。
好きな人はいないの? ナナには会いに来ないんだろうって知っているからこんな質問がいいと、考えた。
「私…? どうして?」
「ちょっと気になったから。いるの?」
「…、……片思い…かな」
変な感じだ。ナナの口からカタオモイなんて聞くと思ってなかった。事実だろうけど、そんな自覚があったっていうのが不思議な感じ。
不快な感じ。
どんな人か聞いてみて、姿は似てるって言われて、そうだろうねと言ってやりたかったけどそれを堪えて、代わりにそいつがもうここにいないことを確認してみた。ナナは、驚いた表情をして何も言えずにいるみたいだった。そこでいいことを思いつく。
本当にナナの好きな“カラ”に成り代わったら、ナナが僕を愛してしまうこともあるんじゃないかって。
「ねえ、僕じゃ駄目?」
「え…?」
僕は彼女に近付いていく。静かに後ずさっていくけど、ナナは壁に捕まった。瞳が揺れている。(……きれい)
「僕じゃ駄目なの? 似てるのに…」
「…でも、あなたは彼じゃない」
その白い頬を指でなぞって。
「代わりで構わないから…。ナナの為なら何でもする。名前も、好きだった人と一緒にする。教えて? …ナナ」
「…嫌…、」
なんでも、なんて嘘。名前なんて最初から同じだと気付いてる。だけど、こうすることで錯覚に陥れることが出来る。
ナナは僕の存在をやがて認めて、しかも一番大事な位置に置いてくれるかもしれない。甘い気持ちが広がる。(…なんだ、)なんだ、僕って、いつの間にかナナのことかなり気に入っちゃってたんだ。
気付いた次の瞬間には、視界を、すてきな彩りが満たしているように見えた。不安そうなナナの表情さえ僕に喜びしか与えない。
だから気に入らない。許せなかった。
「夏羅、は……敵なんでしょう?」
意味の分からないことを言ってまで僕から逃げようとしたナナが。
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