3-1
ちがうと言われたことばが嫌だった。どうしてかはよくわからなかったけど、でも、とてもいい思いつきだと思ったのに。きっと僕とナナとは一緒だって。
散るときが好きだというから気分をよくしたのにな。そういう理由だったら僕は今回のことを許せるし、精一杯大人になる準備が出来る気がした。
だけど違うっていうんだから仕方がない。提案を変えてみることにする。無邪気に傷付けるようなたとえ話なんてどうだろう、と、本来の目的に戻って言葉を選ぶ。
「じゃあ、天敵かな? 僕が蜂で、君が蝶なら」
きっとこんなの辛いだろうなと心中で笑った。大切な人とよく似た相手が天敵だなんて、きっと拒みたくなるだろう。ナナは戸惑い顔で、それも違う、と答えた。予想通りだから僕は嬉しくなったけれど、続けて彼女はよくわからないことを呟いた。
「私は――、守る」
「……何を?」
「あなたから、蝶を」
風が入ってきて、カーテンを揺らして止んだ。時計の針が進む音だけが残る。ナナは不安げながらもとても真剣な顔付きで真っ直ぐこちらを見ていて、その眼差しに敵意がみえる気がする。言いようのない不快感が胸に競り上がってきて、面白くもないのに僕は少し笑い声を立てた。
混乱している。焦っている。そう気付くのは、自分で立てた喩えを崩してしまってからだった。「なに、それ。僕が寄生蜂みたいな言い方じゃない」
まるで僕が寄生蜂であることを彼女には認めて欲しくない様だ。はじめにそんなふうに言ったのは僕だ。ナナが気付くはずがない。
「なりたいみたいに話してるから、」
その言葉とほほえみに、勝利を得たような安堵。
(気付いてない、なら、いいんだ)
ようやく僕の気持ちは凪いで、風と一緒にカーテンに紛れていく。
「――なる必要はないよ。」
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