2-1
なんだか頭がぼうっとしていて、気がついたらよく知らない景色が目の前にあった。我に返って驚いたのと同時に「え、」と自分の中から音が発せられて、それにもまた驚く。意識が曖昧だった分を取り戻すようにやたらと思考が働こうとしていた。
振り返ると四角く切り取られた空があった。ああいう上の方に青とか白とかが広がっている終わりのないものを空と呼ぶのだと
次に、狭い囲いの中に向き直る。これも確証は持てないけれど、様子から考えると部屋という囲いだった。にんげんが暮らす為の場所だと聞いたのにどうして自分がここにいるのかと不思議に思って、そうしたら急に身体に違和感を覚えた。さっきまで普通に動かしてたけれども、もう一度少し動かしてみていつもの身体と違うことを知る。自由の利く「首」を動かして「手」元を見る。
ごそりと音がしてそちらを向くと、何かに巻かれた今の僕と同じような恰好の生き物がいた。これはもしかして、これがにんげんなんじゃないかとその時気付いた。だとすればそこにいるのは僕の自由を奪ったにんげんで、僕は願い通りにんげんの姿になったということになる。
本当に、なれるなんて。苛立ちみたいなものを連れた複雑な喜びがじわりと込み上げる。次になにをするかは決めている。眠っているらしいにんげんの前に立つと僕の影が黒く彼女を染めた。
ふと、竦められた体。微かな声とともに彼女は薄く目を開けた。少しどきりとした僕を早々に見つけて、驚いたことに、それは僕の名を呼んだ。(……ちがう、)まるで親しい人の存在を確かめるように。(呼んだのはきっと僕の名じゃない)
じゃあ何の?
――だれか、もうここにはいない、大切な人の。
僕は笑んでみせた。「そう。僕の名前、」まだ混乱を抱いたままのその目に落胆が映るのを確認する。
殺してやろうと、それだけじゃつまらないから寄生してやろうと思っていた。でも、ただ寄生するだけでもつまらないから、
苦しめてあげるよ、お姫サマ。
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