and more emotions

1-1

 勉強用の机と、ベッドと、小さな本棚がある。茶色のカーペットやクリーム色のカーテンはもともとこの寮のもので、ときどき洗濯に出す以外は替えていない。

 実家にある私の部屋より小さな部屋だった。狭いのはどことなく安心する。ときどき、息苦しいかもしれない。


 部屋着に替えてから本棚の上にある虫かごを覗いた。中には土の入った瓶があって作り物の枝を差し込んである。これは、倒れないように土の中で留めてあるのだと勇が言っていた。枝には一枚だけ葉がのびていて、土の真上で、明かりを遮ってる。

 葉の裏に若葉色の蛹がいた。黒い染みを一点持つこの蝶は、蜂に寄生されていてもう大人にはなれない。

 七月の終わりに一度家に帰って、そのとき勇に貰った子だった。ケースは果楽のいたあの虫かごで、こうして見ると、小さい。……息苦しい、かもしれない。


 蝶たちのことをよく知ろうとして、私はたくさん本を読んでいる。少しでも果楽に近づきたくて、ずっと。

 だけれど、同じ場所から一歩も動けている気はしなかった。外に出られるようになって、いろんなことを知ったけど、――変わっては、いるけれど。


(……きっと、少し違う……)


 目を閉じると消えていく彼が浮かぶ。

 本当はもう、悲しみ続ける必要はないはずなのに、わらってと言われたのに、私はそこから離れられないままだった。

 そうして死にゆく蛹に果楽を投影している。

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