3-2

(今さら捨てるのか)


 捨てる、なんて言葉が浮かんだことに自分自身驚いた。

 囚われていたはずだった。殺されようとしていたはずだった。

 僕は彼女を、憎んでいたんじゃなかったんだろうか。(だから?)だから、こそ?


 青く透明な翅を、鱗粉の少ない薄い翅を、気に入っていたのはあなただ。はやく死んでゆくところを見たいと、そう言ったのはあなただ。

 (なぜ?)僕は彼女を、(儚い目)憎んで、(くすんだ細い髪)いた、


(花のような笑顔)


 今はじめて気付いてしまう。

 僕の中にはもう既に残酷な彼女の姿なんてなくて、代わりに、やさしい彼女だけがそこにいる。

 そもそもひとの間では、素性のわからない相手を警戒するはずだった。彼女の弟がそうだったように。


 毎日用意される、僕のための飲み物。

 僕が座ることを許された壁側の席。

 なつこく話し掛ける彼女。


 嘘みたいだと思う。いつの間にこの囲いの中に、居場所を感じていたんだろう。

 ――それを、退ける、言葉。


「空へ」


 帰す、と。

 今さら。


(生きることを願ったんじゃないのか)


 僕は。あなたは。

 そう、ナナは僕が生きることを望んだのだと言えると思う。

 それでも僕はその心変わりを、喜んで受け入れることが出来なかった。

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