2-3

 ただ一人知らない人間がいるだけで、俺にとってその部屋は別世界に変わってしまったようだった。


「…だれ…?」


 自然に口からそう漏れる。


 姉ちゃんの部屋。姉ちゃんしかいないはずの部屋。なのに、折り畳みの机を挟んだ向かいに男の人がいた。大体姉ちゃんと同じくらいの年齢に見える。

 青い髪に、まっくろの目に、ちょっと変な服。こんな人、俺は見たことがない。

 同じような様子で、二人は俺のことを見ていた。びっくりしてるんだろう。きっと俺も、そんな顔をしている。

 沈黙があって、それからその男の人は質問に答えようと口を開いた。

 そこで俺は、おかしなことに気づく。

 なんで一階にいた俺が知らないうちに、この人がこの部屋にいるんだろう。どこから現れたっていうんだろう。


「あ…えっと、僕は」

「どこから入ってきたの? 玄関からじゃないよね」


 声はきつくなる。だっておかしいし怪しい。なのに姉ちゃんは俺の名前を、これ以上詮索するのを止めるように呼ぶ。

 机の上に、男の人のために出されたジュースがあった。姉ちゃんが飲みたいって言ったジュース。俺が買ってきたジュース。


「勇、やめて。彼が困ってる」


 姉ちゃんはこの人と知り合いなんだ。


「姉ちゃんもさ、どこで知り合ったの? 学校行ってないし、家からだって……」出ないのに。

「それは……」


 なんでか凄く嫌な気持ちだった。腹が立ってたって言ってもいい。

 全然わからない。


「……勇、あなたには関係ないでしょう?」


 だって、俺だけが、この部屋に入れたはずだったのに。

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