2-2

 昼下がりは気がつくと微睡んでしまってることが多い。目が覚めると、風のような彼がいる。

 私は果楽にいらっしゃいを言って、水や、ときどきジュースを持ってくる。勇が一階にいるからその目を盗むのは難しかったけれど、お盆休みは終わって、まだ日は高いから、見付かってもあまり不思議がられることはなかった。

 部屋に帰ると果楽は壁側に座っていて、コップを差し出すと控えめに受け取る。髪はあおいろで、肌は白くて、ふわりとした印象の男の子だけれど、瞳は黒でいつもつややかだった。きらめきながらその目のみる先がコップのなかに移される。

 男の子なのにはっとするほどきれい。服装はゆったりした、町のどこに行っても見かけないような、だけど懐かしいような不思議な感じのするものを身につけている。

 いつもどこから入ってくるのか、だれなのか、私はもう聞こうと思えなかった。美しく描かれた砂上の絵を払ってしまうようで怖かったのかもしれない。


「ねえ」

「、……何ですか?」

「髪、きれいね」


 少しの間をおいて、果楽は自分の前髪をちょっと撫で付ける。何か言葉を探して「あの」と言い、やがて「はい、ありがとうございます」と俯いたままで言った。

 その仕草のひとつひとつがなんとなく、いとしい。

 声に声が返って来るのも、果楽が私の部屋でひっそりと座っているのも、なんだか嬉しかった。

 ひとが隣にいるのは怖いと思ってた。――今も怖い。

 でも、果楽がそこにいてくれることで心は安らかになっている。

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