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 朧げに外の様子が見えていた。頭上には格子があり、その間を覗くほうが外はずっとよく見ることが出来る。把握出来ることは少ないけれど、ただ、この囲いの外にもまた囲いがあるのだということは分かった。

 そしてそこに、彼女がいることも。

 少女だった。はじめに見せた笑顔をあれ以来浮かべていたことはない。殆どの時間はこの囲いの中――おそらくはこちらのことを見つめているのだけれど、無表情でいることが普通だった。

 僕を捕らえた少年は毎日彼女を訪れる。いつも、簡単な会話だけで少年は去っていく。


 飢えや渇きはまだそこまで酷いものではなかったけれど、不安や焦燥に苛まれていた。

 ひとが時折僕らを捕らえることがあるのは知っていた。特に、空を渡るのでなければなおさらそういう危険があるのだと聞いている。けれど、大抵の場合は僕らに害を成すためではなく、僕らにはない「育てる」ということの興味のためで、だから死ぬまでの面倒を見ようという気はあるとも聞いていた。こちらが食べられるものをなんとか用意するのだと。

 少女は僕に何も与えない。食料も、土や草も、何一つ。

 他のひとはどうなのか、この目で見たわけじゃないからわからない。けれど僕を捕らえたままのこの少女や、あの少年は、世話をやくために捕らえたわけではないのかもしれない。


 命を接ぐために、仲間の元へ帰らなければならないと思う。この囲いから逃げ出して追いかけなければ。

 もし本当にこのまま何も食料を貰えないのだとしたら、死という時間の制限がつくことになる。逃げるための時間、仲間に追いつくための時間。それがもたなければ、命を次に繋げられないのならば、僕は何のために生まれてきたことになるのか。


 切り取られた青空が囲いの一部から覗いている。嫌に遠くて、僕はまた不安に駆られた。

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