第三節 秋空


 聞いて果楽


 私 蝶が死んでいくのが好きなの


 プラスチックのケースの中で


 透明な床に手をつき羽をふせ


 息絶えてゆく姿を見るのが好きなの


 命が消える前の儚さが好きなの―――




 七花はそう僕に語った


 ケースの中の青い蝶を眺めてそう語った


 あなたは気づいていないんだね


 今見ているその命は


 僕と同じものだと


 その心は


 今 姿を変えてあなたの後ろにいることを



 そうだ 僕は元々殺される為にとらわれたんだ


 愚かな人間 あなたの与える水がその喜びを妨げていることにも気付かない…






 秋が来た


 もう仲間は暖かい場所へ旅立つ


 そんな日




「果楽、私、この子を空へ帰してあげようと思うの」




 突然、ナナはそう言った


 静かに 悲し気に




「なぜ?」


「二週間経ったわ。何も与えていないのに、生きたまま二週間も経った。不思議。死なす為においていたはずなのに、今はこの子が死ぬのを見るのが怖い。ねぇ果楽、今放したら仲間の所へ追いつくかな……」




 僕は静かに彼女を眺める


 今さら捨てるのか


 あれほどまで死んでゆくところを見たいといって、今さら―――



 本当に不思議


 逃げるために彼女に会いたいと願ったのに


 今は……


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