第三話 そろそろいいだろ、もう我慢出来ない

 それからと言うもの、夕飯が終わる頃には天井から降りてくるようになった。

 いつのまにか深夜前まで仙女と過ごすようになった。

 そんな時に名前を教えてくれた。

「雅 凛子。それが私の名だ。好きに呼べ」


 そんなある日。

「なあ、そろそろいいだろ」

「どうしたのかい」

「俺もう、我慢出来ないんだよ」

「あらん、やだ。ちょっともうそんなに寄らないで」

 俺は雅仙女の手を両手で握って迫った。


「俺に勝ち方をいい加減に教えてくれ!」

「あ、そっち」

「なんだ、他に何がある」

「いや、別に」

「それでは。これまでのことを、おさらいするぞ」


・相手を見ろ。

・負けることは楽しい。


「ああ。分かった。もう十分わかった。この一週間ずっとそればっかりやって負けてるからな」

「これら精神論の共通点を述べよ」

「は? まだ精神論かよ。本当に強くなれるのかよ」

「おまえ、私に一度でも対戦で勝ったことがあったか」

「……いいえ。ありません。すみません」

「もう答えは出とる。まだ気づかんのか。これだから俗世は」

「おまえも十分俗世に染まっとると思うけどな。なんなんだよ、なんでDOAのあやねコス着てんだよ。しかも初期の」

「買ってきた」

「意外と金持ちだな」

「はよ、答えんかい」


「……。分からん」

「相手じゃ。あ・い・て」

 と扇子で自分を指しながら、くどい調子で言ってきた。

 頭を抱えてしまう。

「当たり前だろうが。何なんだよ」

「勝負事に相手は必ず必要じゃ。でなければ、絶対に楽しくならない。ただのオナニーじゃ」

「オナニーって、女の子がストレートな」

「それはすでに実感しておるはず」

 そういえば、最初にあの地獄のオフライン一時間ノックを耐えきれなくなったんだっけ。

「相手がいてくれるから、格ゲーができるってことか?」

「出来たら、対戦してくれたことに感謝をすることだな」

「負かされた相手にそんなことできるかよ」

「出来るようになったら、勝てるようになる」

「なんで勝負の相手にそんな態度取らなきゃならねーんだよ」

「楽しくなくなってもいいのかえ?」

「どういう意味だ」

「相手がいなくなれば、勝負事は成立せん。オナニーの果ては苦痛、そしてゲームをやめることになる」

「あ……」

「勝負事の相手がおるということは、自分が楽しくなれるということ。つまり『相手に感謝』だ。そして、感謝が出来るということは、強くなっているということ。ドゥーユーアンダースターンド?」

「なんでいきなり英語」

「とにかく分かったかえ」

「理屈は何となく分かったが、感謝なんて出来ねーよ」

「いきなり、憎んできた相手を感謝しろなんて無理に決まっとる。少しづつでいい。これまでのことを思い出せ」

「で、今日も強くなる方法教えてくれないのか」

「時間じゃからの。ではおやすみ」

 指先パチンと鳴らすと、あっという間に元の服装に戻った。

 そのまま扇子をふってバイバイと、天井の中に帰っていった。


「……本当に格ゲーの仙人なのか、あの女」

 缶ビールを一気飲みして、ゴミ箱に放り投げた。

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