第二話 『相手に負けて楽しい』

「格ゲーは、楽しいのかな。負けて悔しいけど、なんとかなるかもしれない、相手は人間だと思うから、何度も挑む」

「そうじゃな。それを曲解するとこうなる。『相手に負けて楽しい』とな」

「そんなわけ、あるかよ!」

「ほう。論破できるなら、存分に言ってみよ。見事なしたら手ぐらい握ってあげてもいいぞ」

「よし。……ぐぅ……」

 仙女の言うとおりだ。

 負けて楽しくなかったら、連続で対戦なんてしない。苦痛ならさっきみたいにすぐにやめちまう。

「納得したようだな。そう、格ゲーを含む勝負事は皆『負けるから楽しい』のだよ。この事実に目を背けては決して強くなれん」

「負けて楽しいなら、なんで勝とうとするんだよ」

「さっきのアーケードモード、最後のキャラは強かったじゃろ。初めて勝てた時、喜んだように見えたが」

「そ、そりゃ」

「それと同じこと。勝つ努力の過程で負け続け、結果として勝利する。人はこれに魅了される。だからこそ、勝負事は何千年経っても盛り上がる」

「なんか、精神論っぽいな。そんなんで勝てたら苦労はしねぇよ」

「馬鹿もん!」

「いて。扇子で叩くなよ」


「勝負事で勝つためには、まずは精神論さね! これなくして勝利などありえん!」


 仙女のドヤ顔に、俺は呆れ返っていた。

「そんなわけが」

「とにかく今日の熱帯は、『相手に負けて楽しい』ということを意識してやってみなはれ」

「それで勝てるのかよ」

「勝てるわけがない」

 ズコーーーーーー。

「おいこらっ」

「じゃが、変化はあるはず。おまえもお主も、実践してみんさい」

「だから、怖ぇってばよ」

「私はひとまず帰るから、明日またの」

「また来るのかよ」

「迷惑か」

「し、仕方ないな。どうしてもって言うなら」

「三十過ぎのおっさんがツンデレとかキモいわ」

「うぐっ」

「じゃあのー」

 俺の心に消えない傷跡を残して、仙女は天井に吸い込まれていった。


 その夜。

 早速ゲームを立ち上げオンラインに繋いだ。

「負けて楽しいなんて、思っててもさ……」


 アケコンをそっと膝上からテーブルに置いた。

「ほらぁぁぁ。やっぱり勝てねぇーじゃんかよ」

 二時間ほど挑み続けたあと、俺はシャワー浴びて寝ることにした。


 夕方。

 仕事から帰ってくると、仙女が空中に浮いていた。

「ひっ。おいこら! ビビらせんな」

「おかえり。仕事に行っておるとは感心感心」

「だから、宙に浮くな……て」

 ミニスカートに中は縞パン……だと⁉

「早速見ておるな、わかりやすい男や」

「み、見てねぇ~し。シルクの大人縞パンだったなんて確認してね~し」

「しっかりガン見しとるな。まあ、褒美とおもって見せたから怒りはせんよ」

「褒美? 仕事のか」

 仙女は床に座ってスカートをすいた。

「違う。昨夜の熱帯じゃ。ちらっと様子見たぞ」

「いたのかよ!」

「変化、あったではないか」

「どこがだよ。負けまくって散々だったよ」

「台パンしたか?」

「ん? そういえば昨日は一度も」

「ふむ。良い傾向じゃ」

「台パンと勝負となんか関係あるのか」

「ある。というわけで次のステップに移ろう。次は相手を見ろ」

「相手?」

「にくくて仕方なかった今までと違って、今度は冷静に見れるようになるはず」

「そりゃ格ゲーは、『自キャラを見るな。相手を見ろ』て言われているし、俺も実践しているぞ」

 刹那、扇子を突き出されて念を押された。

「よいか『相手に負けて楽しい』を忘れるな」

「ああ……」

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