第一話 勝ち続けるのは楽しいかえ?

 俺は答えに窮してしまった。

「あれ? 言われてみれば……」

 仙女はかぶりを振ると、巨乳の谷間から扇子を出して指図を始めた。

「さっき台パンしてた格ゲーで、オフラインモード選びんさい」

「何なんだよ」

「言うとおりにしな」

「わ、分かった」

 美少女が俺の弱点だとは予想外だった。言われてたとおり格ゲーのオフラインモードを選択する。

「これ、《デッドオアアライブ》の最新作じゃな」

「そうだよ」

「私がこれを触ったのは2の頃でなー。こんなに綺麗になっとるとはのぅ」

「あんた、いくつだよ。どう見ても十代か二十歳にしか」

「私は仙女だと言ったろうに。歳なんぞ百年も千年も大差ない」

「なんか、女天狗みたいだな」

「これのことか。なるほどちょうどいい、これを選べ」

「ええー。このキャラ、フレーム遅くて嫌だよ」

「いいから選べ」

「は、はい」

 言われたとおりキャラセレクトを女天狗にした。黒い羽が生えた雅な風貌が特徴のキャラだ。そこそこ人気はあるが、技の発生が遅く勝つのは難しいと言われている。実際全国大会でこれが勝ち残ったことは記憶にない。

 オフラインモードのアーケード対戦を始めようとした時、仙女が待ったをかけた。

「何なんだよ」

「難易度をもっとも低いものにしなさい。それで一時間ほど繰り返してもらおうか」

「何の意味がある?」

「いいから、言われたとおりにやってみなはれ。途中でギブアップしてもいいぞ」

「なんでそうなるんだよ。あんまり俺を舐めんなよ」


 CPUルーキー相手なら、万が一にも負けない。パンチ連打してれば勝てる。

 案の定、あっさり最後まで行った。

「ほら見ろ」

「いいから、繰り返しなさい」

「わかったよ」

 あの目で見つめられると何も言い返せない。


 ――15分後。

「ううう……」

「どうした? まだ負けてないではないか」

「飽きてきた」

「さあ、はよ」

 ――20分後。

「か、勘弁してください。ギブアップです。もうこれ以上繰り返したら頭がおかしくなる」

 なぜか胃液が逆流しそうになっていた。

「そうか、そうか。まあまあ長いほうかな」

「これに一体何の意味があるのさ」

「おまえ、健人はずっと勝ち続けたわけだ。どうだ、感想は。楽しいかったかえ?」

「……ぜんぜん。ただひたすら苦痛でしかなかった」

「質問を変えよう。おまえは熱帯オンライン・たいせんをしている時間はどのくらいだい」

「一時間以上かな」

「どうしてそんなに続けられると思う?」

「腹が立って悔しいからで」

「ならば、このアーケードモードを高難易度にするば同じ気持ちになるかの」

「無理だよ。このゲームのCPUは入力に反応して来るから」

「答えはそろそろ出たのではないか」

「答え?」

「おまえ、格ゲーは楽しいか?」

「格ゲーは……」

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