第2話覚醒
目が覚めた。
身体が動かない。
どうやら固定されているようだ。
頭の先から足の先までしっかり固定されていて首すら動かせない。唯一鼻と目だけが何かに覆われていない感覚がする。
視界はハッキリしていない。靄がかかったようにぼやけている。目に入ってくる光の量を考えるとおそらく昼なのだろう。蛍光灯という線も無くはないがこれは太陽光で間違いない筈だ。
俺は...あれからどうなったんだ?
死んだのか?
いや、意識があるので死んだという事はない筈だ。
俺はまだ死ねないのか...
グウッッ!!
突然、激痛が襲いかかってきた。
骨折とか火傷で肉が焼け爛れただとかそんな生温いものではない。
全身が、魂が万力で締め付けられ押しつぶされてしまいそうな激痛。
あまりの激痛に俺は意識を手放した。
ーーーーーーーーー
次の日、再び俺は目覚めた。
そこには前日まで靄のかかっていた視界はすっかりクリアになっている。
そして、脳に入り込んできた情報を分析して理解した。
ここ、日本じゃない。
断定する情報は3つ。
1つ目は目の前に広がる草原。そこには日本には生息しない筈の植物が群生している事。
2つ目はそもそもこの草原の地形は日本には存在しない事。
そして3つ目、目の前にコモドドラゴンがいる事。
旅好きだった俺は日本中を歩き回ったがいくら何でもこの条件に当てはまる場所は存在しなかった。
決定打だったのは3つ目。
日本にコモドドラゴンなんていてたまるか!!
しかし、コモドドラゴンが生息する地域にこんな草原あったかなぁ?
......あのコモドドラゴンずっとこっち見ているんだけど。
え?俺、生きたまま喰われる?
いやいやいや、それだけはやめてくれ。生き地獄にはなりたくない。
おい、そんなに俺を見ないでくれ。頼む、どっか行ってくれ。
でも、何故こっちに来ないのだろう?
そこに段差があるだけじゃないか。
ふと自分の置かれている状況を思い返す。
俺、負傷している筈だよな?なのに何故外に放置されたんだ?
顔も首も動かせないが下は見ることが出来た。
そして何故コモドドラゴンがこっちに来ないのかが解った。
来ないのではなく、来れなかったのだ。
下は奈落の底まで続いているかの様な深い深い崖だった。
そして理解した。
俺、崖に埋まっているらしい。
・・・・・・
俺の脳は思考を停止し眠りについた...
ーーーーーーーーー
どうも、崖です。
...嘘です。埋まっているだけです。
現在、俺はこの世界に対しての認識が変わった。
ついさっき、あのコモドドラゴンが兎っぽい何かを口から炎を出して炙って食べてました。
はい、ここ地球ですらありませんでした。異世界ですね、分かります。
ーーーーーーーーー
情報の整理がついたところで今の状況をまとめてみた。
1.ここは異世界である。
2.崖に埋まっているので固定されている部分が崩れたら死亡案件。
3.飯がない。
4.ここから抜け出せたとしても炎を吐くコモドドラゴンにやられる可能性が高い。
5.この身体、俺のじゃねぇ...
そう、この身体、長年苦痛を共にした我が身ではなかったのだ。
まず明らかに身長が違う。今は埋まって見えないが俺には分かる。
次に髪の色が違う。崖から落ちる前は艶のある黒だった。それなのに今は何故か綺麗な金に染まっている。
そして最重要事項、あれがない。
もう一度言う。あれがないのだ。男の象徴とも言えるあれが。
正直言って自分の外見には興味は無い。だが、あれが無くなってるとはどう言うことだ?
寿命がべらぼうに長い種族は生殖器官が無い、もしくは退化していると聞く。
さらにそれらの存在は基本食事はいらないらしい。要は悪魔だとか吸血鬼だとかはたまた神だとか。まあ、架空の存在だが異世界ならあり得るだろう。
現在、俺は日が60回程度昇って沈むのを確認した。それなのに餓死どころか空腹感すら無い。約2ヶ月人間は飲み食いせずに生きていられるか?答えはノーだ。例え生きていたとしても餓死寸前になっているであろう。
つまり、この状況から推測すると俺は人外になっている可能性が高い。
遂に俺は本物のバケモノになってしまった様だ。
もし神だったらバケモノなんて思ってしまってすみません。ですが、それでもバケモノはバケモノなのです。
と、まあこれらが今までに判明した事だ。
ただ飯くらいは食いたいな。
え?食わなくていいなら飯が無いのは重要では無いって?
バカヤロウ!!飯を食う理由は生命の維持だけじゃねぇんだよ。ほら、楽しくないじゃん、な。誰だって食いたくなるんだよ、60日くらい何も口にしてなければ。例え空腹でなくとも。
そんな事を考えながら約2ヶ月崖の中で過ごしてきた訳だが、この後崖の中生活に転機が訪れることとなる...
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