第14話
14
視力検査、聴力検査、身長、体重、座高、握力検査、体力検査、血液検査、肺活量検査……そして魔力検査。
暴走するアベルトに引きずられ、検査室ならぬ部屋に連れて行かれた義明は、魔力検査以外、とくに『これぞ異世界』と思うような、検査はなかった。
といっても魔力検査も水晶みたいな石に手を当てて終わっただけなので、検査事態はとくに特別なものはなかった。まさか、異世界で20mシャトルランをやるとは思わなかった。20m間をドレミファソラシドがなる間に20mを走り、回数を上げるごとにテンポのスピードが上がっていく体力検査である。
こちらではドレミファではなく、『パン、ピン、プン、ペン、ポン、ポン、ポン、ボン!』の音であったが、それ以外はなんらかわりのない正真正銘の20mシャトルランであった。このときはアリ―とアマンダも一緒に行った。そのときの二人の格好は、普段のローブ姿ではなく、身体のラインがハッキリ見えるなんとも動きやすそうで、かつ男子にとっては目のやり場がこまる格好であった。
結果は義明、97回。高校生としてはまずまずの結果だと思うのだが、この世界では日本での常識はまたしても通用しなかった。
アリ―、549回。アマンダ、555回。二人はとんでない結果を叩き出したのだった。それでいてまだかなり余裕のある様子であった。ちなみに義明の世界の世界記録は375回なのだから、この二人の凄まじさが伺える。
終わったあと二人に笑われるかと思ったが、笑うどころか義明を心配した。97回は二人にとってみれば、あり得ない数字であったらしく、義明がどこか体調が悪いのかと、まさか瘴気の影響と心配そうな表情をしながら言い出した。義明は二人に理解させるのに20分くらい時間を要したのだった。
「お疲れ様、ヨシアキ。これで全部の検査は終わりよ」
最後の肺活量検査を終え、長かった検査が終わる。
「ふー、おつかれぇぇぇ。はぁー」
「ふふ、流石に疲れちゃったかしら」
「そりゃ今日は走ったからね……普段あんなに走らないから」
それなのにアリ―にいいところを見せようと、すこし無理をして頑張ってシャトルランをやったのに、いいところを見せるどころか逆に不甲斐ないところを見せつけてしまった。
世界記録を軽く超えちゃうのだから仕方ないといえば、仕方ないが……。
「な、なぁヨシアキ……お前の世界の人間たちは皆このような数値なのか?」
「え……」
「とくに握力とか体力とか、肺活量とか……。どれも子供以下の数値だぞ?」
「こ、子供以下!?」
まさか子供以下の数値とは思わず、つい声を上げてしまった。
「でも、どの検査も異常に低い以外はどれも正常ですね。とくに異常は見られないですね。ヨシアキ様は普通の人間ですね」
「ああ、普通の人間だな」
「普通の人間ね」
「と! いうことはですよ? ヨシアキ様が普通ということは、やはりあの石以外に考えられません!
さー! ヨシアキ様の調査が終わりました!
今度は石の調査ですよ! 調査!」
「だから落ち着きなさい、アベルト。
ねー、ヨシアキ。あなたが持っていたこの石のネックレス。
調べさせてもいいかしら。
もちろん、壊したり、傷つけたりしないわ。調査が終わったらちゃんとあなたに返すわ。
だから、お願いします」
深々と頭を下げるアリ―。
「ちょ、アリ―! 顔上げてよ! そんな調べるくらいいいよ!」
「ホントっ!」
パッと顔上げるアリ―。
その顔はとてもうれしそうで目が輝いていた。
「うーーーー! ありがとうヨシアキ!」
「あ、アリ―!」
そしてバッとヨシアキに抱きつくアリ―と、それにより慌てるヨシアキ。
瞬く間に顔が真っ赤になり、今にも茹で上がりそうであった。
「ふふふ、アリ―。そのまま抱きついたままだと、ヨシアキが鼻血を出して倒れてしまいそうだぞ」
「え?」
抱きつきながらアリ―はヨシアキの顔を見て、慌てて身体を離した。
「ご、ごめんなさい。ヨシアキ、大丈夫」
「う、うん。だ、大丈夫」
その後、すぐさま調査したいと駄々こねるアベルトをアリ―とアマンダは落ちるカセ、ヨシアキの石は研究所の保管庫に厳重に一時的に保管される事となった。
調査は明日から。ヨシアキとアリ―は研究所を後にするのだった。
「ちなみにあの一つ目の化物ってなんなの?」
「ああ、あれはムルピーよ。といっても瘴気で異常な大きさになってるけどね」
「あれがムルピーなの!」
「はぁ……明日までお預けかぁ……」
ヨシアキが帰ったあと、今回の検査のデータを一人整理した。今日は衝撃的なことが多くあった。
自分の憧れの魔女フレンダの孫に会え、魔女フレンダが孫のために残した、フレンダしか作れない貴重な石。
シークレットコード。フレンダが扱えたとされる魔法、知識はどれも習得できたが、このシークレットコードだけはどんなに頑張っても習得できなかった。実の妹であるアマンダさえ、このコードを読み解くことができずいる。天才アリ―でさえも。
「せめてもっとじっくり見ておけばよかった……ん?」
「おい、見つけたか!」
「いや、いない……ちくっしょ、完全に見失ったなぁ」
何やら騒がしく、焦っている声が聴こえる。
声のする方へ顔を向けると学生2人が何かを探している様子でキョロキョロしてりしていた。
会話の内容からするに大方、実験に使うムルピーでも逃してしまったのだろう。
アベルトはよくあることだと思い、アベルトはそのまま通り過ぎようとしたときだった。
「あれ、絶対新種の虫だよな」
「あんな奇妙な虫、初めて見たぜ。きっと研究員に渡せば報奨金がもらえる。それだけじゃく、アリー所長に感謝なんてされたり……」
「ああ! それめっちゃ最高!
……でも、よく跳ねる虫だったな。全然追いつけなかったぜ」
「トラップ魔法に引っかかったと思ったんだけどなぁ……すり抜けるなんて……」
「お前のトラップが不完全だっただけだろ。たく、しっかり組み込んでればなぁ」
「だから、誤ったじゃん!」
「わーってるよ。とにかく、もう一度探そうぜ」
「……ああ、そうだな」
学生2人は、再度二手に分かれて探しにいった。
新種の虫。学生たちは興奮した様子であったが、こんなところにいるわけがない。
「どうせ、魔法薬とかで変異してしまった虫なんでしょー」
そんな虫にアリ―が喜んで感謝をするわけがない。きっと困ってしまうことだろう。
魔法で変異してしまった生物など、星の数ほどいる。いい例が今回ヨシアキを襲ったとされるムルピーだ。
通常であればネズミのように小さく、そしておとなしい動物なのだが、十の災厄が残した爪痕、瘴気によって想像もできない変異を遂げている。それが害獣として生態系を崩したり、人に被害をだしているのだ。
また、魔法実験の結果、異常変異をする個体も多くいる。
今回学生たちが見たとされる虫は、瘴気ではなく魔法によって変異したものだろう。生物が変異するほどの瘴気がこの研究所にあるなんて考えられない。もしあったりしたら大事だ。
「それにしても……トラップをすり抜ける虫かぁ……。
もしホントなら実験のやりがいのある虫ね」
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