第6話
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塔から外へでるときに、アマンダから古い写真を一枚受け取った。
そこには、同じ顔をした魔女が二人写っていた。一人はアマンダであることがわかる。
今の姿と全く同じだが、写真からはすこしあどけない感じが伝わってくる。
もう一人は……義明が知る姿より若いが、それは確実に義明の祖母フレンダであった。
「これをおまえに渡しておく」
フレンダは言った。
「もし、お前が元の世界にもどったら、この写真を姉上に……おまえの祖母に渡してくれないか。
そして伝えてくれ、私の大好きないちごタルトを早く返せ……とな」
義明は塔を出てから、写真を見てはしまい、しまっては出しを何回も行っている。
「まだ、信じられない?」
アリーが優しく声をかける。
動揺して写真を見ている義明のことが心配になったのだろうか。アリーは心配そうな表情であった。
「まぁ、ね。正直、実は夢でしたって言われた方が、いいような気がするんだよね」
義明は自嘲気味に笑いながら言った。
「さっきアリーは、ばあちゃんは素晴らしい魔女って言ってたけど、そのなんだっけ? 災厄だっけ? それを倒した以外に何かしたの?」
「ええ、そうよ」
アリーがすこし嬉しそうな表情する。まるでよくぞ聞いてくれましたと、言わんばかりであった。ウズウズしているのがわかる。
義明は「あ……」とやってしまったかと、すこし後悔した。
たいていこういう顔する人は、つい話に熱が入りなかなか話が終わらない。今は気持ちが整理ついていない状態だから、少し遠慮したい気持ちだった。
「あなたのお祖母様……フレンダ・シュットガルト様は史上初めて 四大元素の精霊王と契約し、使役することができた魔女なの!
精霊王一体と契約するだけで、歴史に名を刻める程なのに、それを四体も。
精霊に好かれるエルフを差し置いてやってのけてしまうなんて……やろうと思ってやれるものではないわ!
さらに、災厄たちに効果がある武器を製造したり、水竜王を乗りこなしたり、数々の偉業を成し遂げた偉大な魔女の一人よ」
「そ、そうなんだ……」
興奮するアリー。身近な人物がすごく褒めれるのはなんだかくすぐったく感じる。
するとアリーは何やらひらめいたように、眉が上がり、声を漏らす。
「そうか……その可能性はあるわ
いや、でも結論を急ぐのは……でも可能性は大いにある……」
アリーは顎に手を当て、一人ブツブツ呟く。
「……どうしたの?」
「ヨシアキ、アナタは魔女フレンダ様の孫。アナタには少なからず魔女の血が流れている。
その魔女の血と私の魔法が反応してこちらの世界に来てしまった……かもしれないわ。
今回実験していたのは、時空と時空をつなぐ魔法……反応してもおかしくはない……。
それに、私が妹であるアマンダお祖母様の孫っていうのも、大いに関係があるかもしれない。
……共通する物があれば異次元をも超える? 次元魔法にはそういう性質が実はかくされていた?
んー、これは一から魔導文を組み立て直す必要がありそうね」
ひとりで考え込みをするアリ―に、義明はじっと見つめていた。その表情はどこか楽しそうであった。
自分もこうなのではと、ふいに脳裏をよぎった。
何かに熱中する楽しさは義明もよくわかる。
自身もプログラミングのこととなると、熱中しブツブツと独り言を言ったりしている。
そのせいで、よく母に御飯中は御飯に集中しなさいとか、妹に独り言がなんだか気味が悪いとか、言われていたが、もしかするとアリ―の今の状態みたいな感じなのかもしれない。
そう思うと、義明はなんだかおかしくなり、笑いがこみ上げてくる。笑っちゃうと失礼だ。そう思えば思うほど、笑いがこみ上げてくる。
すると、アリーが義明の行動に気づき、慌てつつも照れた表情をする。
「はっ! わ、わたしったらつい……。
ご、ごめんなさいね。
癖で……一人で考え込んじゃうのよ。気をつけてはいるのだけど……
気味悪かったよね……あはは」
照れくさそうに頬をかくアリーに、義明はドキッとしてしまう。
見た目は美人でクールなので、高値の花のような印象を受け、話しかけるのも恐れ多いと感じてしまうが、彼女の箒飛行中のイタズラ行為や、今のような自分の世界に入ってしまうようなところも、ギャップがあって可愛いと思う。
そして、照れている彼女はまた特別かわいく、目を奪われてしまう。
「よ……ヨシアキ?」
「はっ! ごめん!
いや、大丈夫、大丈夫!
実は俺も熱中しちゃうと独り言を言ったりして、よく母さんや妹にキモいっていわれているから」
「そう……そうなのね」
アリーは小さく良かったとホッと胸をなでおろす。
「ねぇ、アリー。アリーって街の人たちにすごく人気みたいだけど、もしかしてアリーも十の災厄を倒した英雄の一人だったりするの?」
義明はこの街に来てずっと思っていたことを、アリ―に聞く。すると、アリーは驚いたように目をみひらくと、すぐにだんだんとにらみつけるように義明を見る。
「……ちょっとヨシアキ。それ、わかってていってるの?」
「え?」
「お祖母様の話ちゃんと聞いてた?」
見るからに怒っているアリーに戸惑う義明。アリーはそんなことをお構いなしに義明に詰め寄り、圧をかける。
「十の災厄が倒されたのは、今から五十年も前の話よ!
私はまだ、二十二歳!」
アリ―は「失礼ね!」とそっぽを向き、同時に義明の顔がみるみる蒼白となっていく。
「ご、ごめん! いや、その……いや、だってすごい人気ぶりだったから、世界の一つや二つ、魔王の一人や二人倒してるのだと……それで魔王的な存在が十の災厄かと思って……その……ごめんなさい」
義明は深々と頭を下げながら言った。すると、「はあ」と息を吐くようなため息が聞こえた。
「ヨシアキ、顔あげて」
義明は恐る恐る顔をあげると、アリーは小さな咳払いをした。
「ま、まあ。そういうことなら仕方ないから許してあげるわ。
私は、お祖母様やフレンダ様のような英雄的な活躍はしてない。
十の災厄が倒されて、この世界は本当に平和になったの。災厄が現れる前もね、ひどい戦争が続いていたらしいわ。それこそ、魔族の王、魔王が全世界に戦争をしたりね。何世代にも渡って戦いは繰り広げた。
ある魔王が言ったらしいわ。
『この戦いはどちらが根絶するまで続く』と……。
でも十の災厄が現れたことによって、魔王の予言は外れた。十の災厄は人もエルフもドワーフも、竜族も魔族もこの世のすべてを破壊していった。
だから、みんな協力して十の災厄を倒し、この世界の全種族が争いをしてはならないと、硬い約束を結んだのよ。
その約束に一番力を入れてるのがこれが魔族だっていうんだから、わからないものよね」
「じゃあ、アリ―はどういう……」
「私がやったのは、十の災厄との戦いの後始末って言ったらいいかしら。
災厄の影響で絶滅寸前だった動物を魔法で繁殖させたり、腐敗した大地を元に戻したりしたわ」
義明がイメージする魔女の偉業というのは、封印された古代魔法の謎を解いたり、オリジナルの最強の魔法を開発というものだったため、拍子抜けのような感じがしてしまった。
それが顔にでていただのろう。義明の顔をみて、アリーがクスッと笑う。
「イメージと違ったでしょ?」
「え、いや……その……うん」
「そりゃ、昔は辺り一面を炎の海にする火炎魔法とか巨大な竜巻を発生させる魔法とか研究している魔女は多くいたわ。
でも、時代が変われば魔法も変わる。今必要なのはそういう魔法じゃないわ」
そう言ってアリーは微笑み、再び歩き初めた。
するとアリーは思い出したかのように、振り返り義明にいった。
「あ、そうそう。これから私の家にいきます」
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