第3話
3
驚いて目を見開いた状態で、しばらく魔女を見つめていた。鼓動が早いのがわかる。
薄い水色の髪は夢で見たときより、美しく輝いている。
声も透き通るような声、白い肌。
瞳も見ているだけで吸い込まれそうだった。
「ねぇ、あなた聞いているの? ……言葉が通じないのかしら?」
そんな義明をみて美しい魔女は眉間にしわを寄せながら言った。
「ご、ごめん! その……びっくりしちゃって。ちゃんと通じてます。
えっと……オレは義明。古谷義明」
義明はハッと我に返り、あわてて言葉を返す。
「言葉通じるのね。よかった」
魔女はホッとした様子で、微笑んだ。
「私はアリ―。アリ―・ドルムント。アリーでいいわ。
フルヤヨシアキ……変わった名前ね。ヨシアキが名?」
「あ、はい。そうです」
「ふーん……家名と名が逆なのね。
ねぇ、ヨシアキ、あなたの出身はどこ?」
いきなり下の名で呼ばれドキッとする。
他人に、それもこんな美しい女性に下の名を呼ばれることなんて、この短い人生で今までなかった。
だから、いろいろ考えてしまう。
初対面でも下の名で呼び合う文化なのか。それとも彼女が外国人的なノリを好む人なのか。女性だけが下の名を呼んでいいのか……本当は夢なんじゃないかと。
夢……?
「えっと……そのまえに確認させてほしいんだど。
これって夢?」
「……どういうこと?」
アリーは首を掲げながら言った。
「い、いや……君を夢の中で、2回くらいみたから……今回もまた夢かなって思って……」
「夢で私に?」
アリ―の問いに、義明は無言で頷く。
すると、アリーは顎に手をあて、何かを考え始める。
「あの……えっと……」
「ああ、ごめんなさい……そうね。夢かどうかは頬をつねってみたらどう?」
アリーはイタズラっぽく笑いながら言った。
義明は「なるほど」と、頷き自分の頬を思いっきりつねる。それも爪を立ててつねるとても痛いやつだ。
それを数十秒間やり、アリーはそれをみて「そこまでやるの?」とでも言いたげな様子で見ていた。
「い、痛い……夢じゃない……」
「そんなにつねらなくても……頬、真っ赤よ? 大丈夫?」
アリーは義明の頬に手をかざす。
突然な行動に義明はまたもドキッとし、思わず一歩後ろに下がってしまう。
目線も思わず開いた胸元を見てしまう。
「動かないで」
「は……はい」
すると、アリーの手から青白い光がぼんやりと放たれると、同時に頬の痛みが消えていく。
「はい、終わり」
「え、何……いまの」
義明は困惑しながら言った。
「何って……治癒魔法を使ったのよ」
「ちゆ……まほう?」
義明は痛みが引いた頬をさすりながら、その言葉の意味を考え込む。
「あら? 知らない?
ヨシアキの国では魔法はないの? でも魔法がない国って、この世にあるのかしら……」
魔法、それはまさかよくロールプレイングゲームでよく出てくる、炎を出したり、空を飛んだりする不思議な力のことだろうか。
「それでヨシアキ……あなたの出身は?」
「あ、えっと、日本です」
「……ニホン? 聞いたこと無いわ……ねぇ、そのニホンはどのへんにあるの?」
「ど、どのへんと言われても……」
日本を訊いたことがないと言われ、義明は戸惑う。
なんと答えればいいのだろうか……東アジア、極東の島国……。
そもそもここがどこなのかわからないので、うまく説明しようがない。
すると、アリ―は指をパチンとならすと同時に何もないところから地図が出現する。
「この地図でいうとどのあたり?」
「え……いまのなに? 手品?」
「……手品? 神秘の術である魔法をあなた手品っていった?」
アリ―は不機嫌な顔をする。
声のトーンが1つ下がり、今度は違う意味でドキッとする。
表情をみると見るからに怒りの表情が見て取れる。
「ご、ごめん」
義明は慌てて謝罪をする。
「……まぁいいわ。それで、あなたの国……えっとニホン? それはどこにあるの?」
アリ―が広げてくれた地図を見る。
広げてくれた地図には見たこともない大陸が描かれていた。
「……あの、これってなんの地図?」
「なんのって……世界地図だけど」
「……おれの知ってる世界地図とぜんぜん違う」
地図を見て、うすうす感じていたことが、明確になってくる。いや、魔法という言葉を聞いた時点で感じていた。
ここは日本じゃないということを、ここは地球じゃないということを、ここは義明の知る世界ではないということを。
「オレ……別の世界からきちゃった……なんて……」
「……どうやらそうみたいね」
アリ―は一人納得した様子で地図をしまう。
「ごめんなさい、ヨシアキ。
おそらく、私の実験していた魔法のせいだわ」
アリーは申し訳なさそうに言った。
「実験?」
「ええ、今開発している次元魔法の実験。
魔術コードは組み上げたのだけど、これまで2回実験したのだけど、うまくいかなくて。
ヨシアキ……あなた、さっき私の夢をみたっていったわね。
おそらくそれは私の実験の影響だ思うわ。少なからず別世界とリンクされていたのね。でもどうして今日は成功を……コードはとくにいじってないのに……」
アリーは再び顎に手を当てて考え込む。
「オレって……帰れるのかな?」
義明は恐る恐る聞いた。
「……ごめんなさい。私もどうやってあなたを別世界からこちらに転送できたのか、全くわからないの。
検証をしてみないとなんともいえないわ……」
もしかしたら、帰れないかもしれない。
いや、帰れたとしても数年先かもしれない。そう思ったときに義明は少なからずショックを受ける。
「とにかく、ここにいても何もできないわ。
私の町へ行きましょう」
アリーは指をパチンとならす、今度は何もないところから箒が出現させた。その箒はふわふわと宙に浮いていた。
アリ―はそれに跨ぎ、定番の魔女が箒にのる姿となる。
「やっぱり魔女は箒なのか」
義明はぼそっと声を漏らす。
「あら、あなたの世界でも魔女はいるの?」
「いや、いないけど……魔女は箒に乗って飛ぶのはオレの世界でも定番だから物語とかでよく……」
「へぇ。世界が違くても、共通する部分はあるのね」
アリーはちょっとうれしくなる。
「さ、いくわよ。乗って」
「う、うん」
自転車を乗る感覚でいいのだろうか。先程アリーはそんな感覚で乗っているようだった。
義明は恐る恐る箒に跨る。
すると、跨いだ瞬間、身体がフワッと足の裏から持ち上げられたようになる。
「ウオッ」
「キャッ」
予想もしてなかった感覚に義明は身体を右に、左に身体が揺れ、とっさに前方にいるアリ―に後ろから抱きしめてしまった。
……そして義明の左手はとても柔らかい部分にあたってしまう。
「ちょ、ちょっと変なところさわらないでよ……」
アリーはジト目で抱きついている義明を見る。
「か、肩に捕まりなさいよ……」
「ご、ごめん!」
義明は慌てて肩をつかむ。
「ほ……ほんとごめん」
「……べ、別にいいわ。わざとじゃないんだし。
慣れないと誰でもそうよ。
とにかく……いくわよ。しっかりつかまって」
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