Long December Days:66

‪「ソフィアさん。どうか幸運でいてください。あなたは先程命を狙われることもあるとおっしゃっていた。もしもあなたが死んでしまっては、彼らも祈ってくれる人を失い悲しむことでしょう。ですから、どうかご無事で。それとお付きの方、あなたも僕よりお若いんだ。こんな時代でも未来と可能性はあることでしょう。だからどうかご自愛ください」‬

それを聞いて、二人は目を丸くした後、にっこりと笑った。

「ありがとうございます」

そして、立ち去る二人を文成は静かに見送った。



†アスクレピオス

「ねぇ、陽奈。一つ、聞いてもいいかしら?」

「はい、なんですか、ソフィアさん」

「あなた、なんで家に帰らずにいつもアスクレピオスの宿直室で寝泊まりしてるの?家のベッドの方が寝心地も良いし気が楽でしょうに」

陽奈は大きなため息をわざとらしくついた。

「私もそのつもりだったんですけど、なーんかあの家に一人でいると落ち着かないんですよ。寂しいっていうか、物足りないっていうか。だからあんまり帰りたくないんです」

「それなら、新しい家を用意しましょうか?私の義体のボディーガードをやってもらっているのだから、それくらいはさせて?」

陽奈は首を横に振る。

「大丈夫です。あの家以上に気に入った家は絶対見つかりませんから」

「……わかったわ。気が変わったらいつでも言って」

「はい、ありがとうございます、ソフィアさん」


†ネル

「白雪、ふみなり?」

イギリス人の若い、手入れの行き届いてない茶髪を一纏めにした不健康そうな女性が文成にそう言った。不恰好に痩せた体をロングスカートのワンピースで包んでいる、文成とそう年の変わらない見た目の女性だ。

「そう、文章の『文』に成長の『成』と書く。歴史に名を残すような人になって欲しいとの願いから付けられた名前だね」

「ふぅん……じゃああたしは『ブンセー』って呼ぶわね。それでいい?」

「ああ、それで良いよ。……それで、依頼人さん、あなたのお名前は……?」

「アリエルツィア=リッケルハイム。気軽にアリーと呼んでちょうだい、ブンセー」




白雪文成の事件簿――終。

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(D)evil 白雪文成の事件簿 留部このつき @luben0813

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