Long December Days:65

ソフィアは優しく微笑みながら、陽奈の前に出る。

「いえ、こちらこそごめんなさい。私はソフィアと申しまして、智神の爪ソフィー・ヌゥの長をしております。そのせいで、人間からもNEからも多くの恨みを買っていますの。命を狙われることが珍しくないほどにね。だからあなたもそういう手合いだと勘違いしてしまいました。失礼を許してくださいね」

「そうでしたか……」

軽く頭を下げるソフィアに、文成も頭を下げる。二人とも、文成を覚えていないということに確信を持った文成は、ソフィアに言った。

「僕はここに引っ越してきたばかりで、ここのことをよく知らないんですが、これは一体なんですか?」

その言葉を聞いて、ソフィアは目を丸くした。

「……ご存じないんですか?」

少し怪訝そうな顔を浮かべて、ソフィアは文成に説明した。

NEと人間たちが争っていた中、人間代表として青年団が組織されたこと。彼らの精力的な活動により、停戦協定が結ばれたこと。そして、『不幸な事故』により、彼ら全員の命が失われてしまったこと。

「私は、彼らが乗る最後の飛行機を見送りました。以来、なんとなく負い目を感じているんでしょうね、毎日ここに来て、彼らの平穏を祈っておりますの」

「そうなんですか……」

「彼らのおかげで、今の私たちの生活があるんです。あなたも是非、彼らに祈ってください」

ソフィアのその言葉に、文成は大きく頷いた。

「ええ、分かりました」

ソフィアは石碑に近付き、跪いて黙祷を捧げた後、「でも」と口を開いた。

「でも、私、彼らに祈る度に、何かとても重要な、かけがえのないことを忘れてしまっているような気がします。忘れるはずのないことなのに、靄がかかって思い出せないような……」

ソフィアの横で黙祷した文成は、ソフィアに向かって苦笑いを浮かべる。

「人生なんて、そんなものですよ。思い出したい時に限って思い出せないんです。僕もそうですよ、ソフィアさん」

「そうですか。なんだかあなたにそう言われるととても安心いたしますわ」


それでは、失礼いたします、とソフィアが踵を返して立ち去ろうとするのを、文成が止める。ソフィアと陽奈が振り向き、文成は口を開いた。

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