Long December Days:52

――行ける。そう確信を持って、中段に構えたまま一気に距離を詰め、切り下ろす。虫人間は難なく月影を受け止めるが、陽奈は全体重を月影にかけた。パキンと小気味よい音がした。虫人間が顔色を変え、飛び退く。それを見てすかさず陽奈は跳躍し、突きを放つ。口を狙ったその陽奈の一撃を、虫人間は鎌を使って受ける。陽奈の義足の限界ぎりぎりの速度が乗った一撃だった。陽奈の渾身の一撃と換言しても良い。それによって――もしくは月影の力か――虫人間の左腕の鎌にヒビが入った。畳み掛けるために短く息を吐き、陽奈は脇構えのような格好を取り、すぐに体を捻って横薙ぎを放つ。虫人間はかわそうと身を引くが、元が普通の家だ。もう背後に逃げ場はなく、外骨格で受け止めるしかない。月影を再度引いて、下段に構え、ヒビの入った鎌目掛けて素早く切り上げる。虫人間はヒビの入っていない右腕で受け止めようとするが、ぶつかる直前で陽奈は半歩引き、腕をねじりながら再び虫人間の口目掛けて突きを放った。命中し、貫通する。陽奈は虫人間の腹を蹴り、刺さった状態の月影を無理矢理引き抜く。

「今度は目を貰う」と語る陽奈の刺突を虫人間は辛くも受け止めるが、浅からぬ傷のために動きが鈍い。その後の、足を踏み替え、月影を切り返し、正確にヒビめがけて飛んでくる陽奈の追撃は、受け止められなかった。痛恨の一撃によって、右腕の鎌は使い物にならなくなってしまった。

大きく陽奈が身を引き、虫人間に告げる。

「お前は弱い。ブンセーはおろか、私にさえも完敗するほどに。降伏しなさいと言いたいところだけど、逃げられても暴れられても困るからこのまま死んでもらう。適当にふんじばってアスクレピオスに持って行って解体しなくちゃならないもの」

死刑宣告も終え、再度接敵しようとする陽奈の足が、止まった。虫人間から漏れてる体液が、真っ黒な、あのうごめく粘液へと姿を変えていたからだ。

「まさか、また変身するの……!?」

虫人間の全身まで溶けて粘液となり、体積が小さくなる。

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