Long December Days:53
ソフィアから陽奈のもとに通信が来る。
『陽奈!無事!?そこら中に厄介な虫が湧いてるせいであなたの助けも欲しいの』
いつも冷静なソフィアさんにあるまじき切羽詰まった声だが、最後まで言い切らない内に陽奈が告げる。黒い粘液は蠢き続けている。月影を刺して飲み込まれることを用心して、陽奈は手を出せずにいた。
「ごめんなさい。こっちもその虫の相手で手が離せません。ソフィアさん。殺虫剤くらいじゃやっつけられないです。……噂で聞いたんですけど、天候操作ができる人工衛星って、本当にあるんですか?一時的に日本を氷河期にしちゃえば対処できると思うんですけれど」
西暦時代のロストテクノロジー、その名は「スーパーノヴァ」と言い、プログラムのままに天候を変化させることのできる科学の落胤。試験運用期間中に大災害が相次いだ結果、世論の反発が起こり、休眠状態に入ったものの、今も完全な状態で衛星軌道上を周回しているという話であった。今は藁でもすがりたい気持ちだ。人類の破滅だなんだと言われても、状況を打破するにこしたことはない。
『確かにあるにはあるわ。今もAIもエンジンも抜かれた状態で、地球の周りを回っている。でも残念だけど、アレは使い物にならないのよ。地球を滅ぼすには最適な道具だけれど、日本全域程度の小さな的には到底当てられない』
「ダメですか……」
いよいよ万策尽きたか、と陽奈は大きな溜息をつく。死ぬつもりはないが、苦しい戦いになるだろう。文成とは、連絡がつかない。
『核でも撃ち込んだ方がまだマシね』
その時、何かを思い出したようにソフィアが告げる。
『……マイクロブラックホール形成弾を射出する拳銃なら、あなたの家にあるわよ。文成の部屋の金庫の中に』
「ありがとうございます。使ってみます」
粘液はまだ蠢いている。目を離さないように、しかし素早く動いて、文成の部屋のドアを開ける。陽奈は、なぜそんなものを文成が持っているかはきかなかった。こういう時への備えだろう。「持ってるだけで不幸になるから余分な武器は持たない」という論理は、ソフィアには通じない。持てば持っただけ安全になると考えている。今の陽奈には、後者の方が心強かった。
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