Long December Days:44

何かに気がついて、陽奈が青ざめた顔になる。

「ソフィアさん。妙です。玄関の向こうにいっぱいいるはずですよね。それこそびっしりとドアに張り付くくらいに。羽音をぶんぶん鳴らしながら。玄関を開けてから、羽音、しますか?」

『――っ!ドアにも玄関の中にも何もいないじゃない!サーモグラフィにも映ってない!居間にもあんなにいたのに』

言いながら、ソフィアも気がついた。あれだけ大きな音を立てていたはずの虫たちがどこにもいない。綺麗さっぱりいなくなってしまっている。

「ほんのちょっとの間であの量の虫がいなくなるはずはありません。何かトリックがあるはずです。そうじゃなきゃ説明がつきません」

陽奈がドアに手をかけて、大きく開ける。靴箱の横に立ててある月影を手に取り、抜刀して、ソフィアに言う。

「そのMPFのセンサーで、ウチの中を索敵してもらっていいですか。変なものがあったら教えてください」

MPFの顔の部分が開き、カメラやセンサーがむき出しになる。合わせて、肩や腰、膝が開き、その部分からセンサーが伸びた。陽奈の心臓の鼓動まで聞き逃さないだろう。そして、玄関の中に入ろうとする陽奈を手で制しながら先に玄関に入りつつ、陽奈に言う。

『待って、陽奈。私が前に立つ。この程度のMPFなら一機くらい壊れても痛くも痒くもないけど、あなたにはケガして欲しくない』

肩甲骨につけられたアームから捕獲ネットとグレネードランチャーを外して、靴箱の前に置く。右腕がクロスボウの銃把を握り、肩のアームで安全装置を解除する。その動きをこなしながら左腕では警棒に手をかけ、展開し、いつでも放電できるように備える。

『生命反応はなし。虫も鼠もいない。ドア自体も監視してるけど、特に変わったところはなし。……気のせいってことで済めばそれでいいんだけれど、あなたも私も同時に幻覚を見るってことは、ありえないわよね』

「壁の中とか、床の下とかはどうですか?何かあったりしませんか」

言いながら、陽奈もMPFを盾にして玄関の中を見る。廊下にも居間にも特に変わったところはないように思えたが、ひとつ気がついたことがあった。

「ソフィアさん。ところどころ湿ってるように見えるんですけど、カメラには何か映ってますか?」

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