Long December Days:43

自律型MPFの奏でる、独特の駆動音が陽奈の耳に届いた。大通りの方から真っ直ぐこちらに向かってくる。路地を曲がったところで陽奈の視界に入った。2mを少し超えるくらいのサイズの、量産型の汎用MPFだ。だが、標準的なそれと比べて、輪郭が大きい。よく見ると、かなりの装備を積んでいるようだった。ガスを入れる用のタンクが三つに、捕獲ネット射出機が一つ、多銃身の榴弾投射機構も一つ、クロスボウ――暴徒鎮圧用の麻酔銃――が一つと、そのマガジンが既に装填されているものも含めて七つ。自律型のMPFに標準搭載されている放電機能の付いたワイヤー射出機構が二機、更に同様に放電できる大形警棒が二本。装備がある程度調整されいるとは言え、同じものを一機用意すれば小銃と鈍器で武装したチンピラを1ダース無力化できるでだろう構成である。今は動物園にしかいない熊と虎がタッグマッチを仕掛けてきたとしても容易に返り討ちにできるだろう。

それだけの重武装をしたMPFがまっすぐ探偵事務所の階段を上り、陽奈が唖然として立ちつくす玄関の前で止まる。その間にも頭部のセンサーが忙しなく動き回り、周囲のことを探っている。陽奈が見たことのない頭部だった。量産型の物に比べて、二倍近くの大きさがある。これは後になって知ることだが、最新型の軍用多目的センサーだった。

『お待たせ。これでも急いだつもりなんだけど、少し待たせちゃったわね。確かに虫の羽音みたいなのが家から聞こえるし、サーモグラフィにもかなりの量の虫がいるらしい反応が見える。……陽奈、どうかした?』

MPFからソフィアの声がする。その独り言とも陽奈に呼びかけてるともつかない声と共にMPFが肩に搭載されたガスタンクを一つはずし、ふくらはぎに搭載されたノズルを取りつけ、玄関を少し開けてノズルを差し込み、ガスを噴霧しようとしたところで、陽奈が止める。

「待ってください、ソフィアさん。そのガス一体なんですか」

『何って殺虫剤の中身よ。ちょっとだけ手を加えてあるから人間が吸っても危ないけど。離れてなさい、すぐ片付けてあげる』

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