Long December Days:34
「そうか、お前はお前の力でアイツを打ち負かしてやりたいというわけだな?」
男が訊くと、文成は頷きながら答える。
「その通りだ。だから鍵を渡すことはできない。ニコラスに勝つことさえできると聞いてしまったら余計にね。さて、鍵を渡さないとすればどうする?ソフィーやハルを殺してしまうのか?それとも、僕の記憶を全て奪うのか?」
文成のその台詞を聞いて、男は大笑いする。
「そうだな、人質を取ろうと思っても面と向かって立ってるんじゃ、お前は間違いなく殺しにかかってくるだろう。生憎まだ死ぬつもりはなくてね」
ぼそりとつぶやくように、「どうせ早いうちに死ぬからお前に会うことはないんだが」と男が漏らしたのを、文成は聞き逃さなかった。
「死んでしまうのか?」
そう問いかけながら、未来視を使おうとする文成を、男は制する。
「やめてくれ、その未来視は本物だ。そんなものを使われたら本当に死ななきゃならなくなる。まぁどうせ誰にも話さない話だ、ネルに来た土産に持って帰ると良い」
そう言って、男は話し出す。
「『星読み』って連中がネルにはいてな。まぁ早い話が死神と大体同じような連中なんだが、そいつらがネルの人間の運命を知ってる。で、死にたくないときはお伺いを立てに行ったりだの、お願いをしたりだのするわけだな。……三日前になるが、その『星読み』になりたてのお人よしが会いに来た。『一週間もしない内にニコラス=コールウィーカーに殺される』と書かれた紙を持ってな。で、死ぬ前にいけすかないあの野郎に一発お見舞いしてやろうって魂胆よ。殺しに来るんなら、会えるだろうからな」
他人事のようにそう語る男に悲しみも悔しさも後悔もにじみ出ないことに、文成はかえって好感を持った。とうの昔に地球上から絶滅したと思われる「武人」というものの魂を、目の前の男から確かに感じたからだった。
「なぁ、僕をいつでもネルに送ることはできるのか?」
「なんだ、唐突に。そんなことは簡単にできるぞ。それがどうした」
「助けになりたいんだ。君の死を僕が防いで見せる」
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