Long December Days:33
「分かったよ、文成。顔を見せる。これで満足か?」
そんな男の声がして、目の前に、三十代のアジア系の男性が現れる。浅黒い肌は傷跡が多く、特に左目の傷がひときわ目を引く。濃い茶色の長い髪を一つに束ね、鍛えられた鋼のような肉体を白衣で包んだ、科学者なのか格闘家なのか分からない男だ。左腰に大きく湾曲した剣を携えている。
「お前は一体誰だ?なぜ僕をネルに連れてきたんだ?」
「ニコラス=コールウィーカーの敵の一人さ。それ以上をお前に名乗るつもりはない。そして、お前以上の青銅の鍵の使い手の一人でもある」
そう言って、その男は文成に白衣のポケットから青銅の鍵を出して、見せる。文成の持っているものとは少し細部が異なり、ほんのわずかだが錆びているのが見て取れた。「ほらな、これで満足だろうと」言いながら男は青銅の鍵を再びポケットにしまいつつ、さらに文成に告げる。
「用件はこうだ。『お前の持っている青銅の鍵をおとなしく寄越せ。そうすればニコラス=コールウィーカーをぶち殺し、かつ永遠に蘇らないようにしてやる』」
どうだ?悪い話じゃないだろう?と、男は笑みを浮かべる。それに対し、文成は即答する。
「断る」
男は大きく目を見開いた。
「なぜだ?ニコラスは嫉妬深くて諦めの悪い、歪んだ正義感を持った面倒くさい奴だ。あいつを生かしておいたらひたすらお前に付きまとい続けるだろう。『ソフィアのため』だのなんだのと理由をつけてな。あいつはお前が死んだはずなのに生きていることを決して許さない。たとえ死んでもあいつは追いかけてくるぞ?」
「なぜか分からないのか?お前がニコラスと比べてまともな人間である保証がどこにもない。僕の寝込みを襲って誘拐するような人間と、しつこくて反吐が出るようなストーカーと、僕はどちらも選ぶつもりはない」
それを聞いて、男は舌打ちをする。
「後悔するぞ、雪河智絵。ニコラスはネルにかなり深いつながりを持っている。お前のいる地球で一番太いつながりだ。たとえ青銅の鍵があったとしてもあいつに勝つことは決してない」
それを聞いて、文成は失笑する。嘲笑を浮かべながら、文成は男に告げる。
「本当に馬鹿な男だな、お前は。僕は勝とうだなんて考えていない。ニコラスに味方する愚か者を全員倒して、誰一人ニコラスに味方しなくなる状況を作り出したいだけなんだ。僕に喧嘩を売ってくるような奴を、ただで負かしてやる道理など微塵もない」
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