Long December Days:10


文成が案山子相手に魔法の練習をしばらくこなした後に、少女が少し息苦しそうに口を開く。

「ふーみん。訊こうかなって思って、やめておいたことがあるんだけど、訊いてもいいかな?」

「君も未来を視られるのだから、それで済ませればいいことじゃないのか?」

「ううん。それで済ませるのは少し忍びないことなの」

どんなことを訊くつもりなんだと訝しみつつ、文成は少女を促す。

「不愉快なことでないなら答えよう」

「ふーみん、ネルのことを調べて、魔法のことを調べて、魔法を使えるようになって、その後はいったいどうするの?」

「どうする、とは何を指して言っているんだ?」

「案山子を撃ち抜けるようになっただけでも、この技術を広めれば大金持ちになれる。魔法が使えるようになった今のふーみんは、ウケモチシステムを量産することだって簡単なことにしてしまった。ちょっとふーみんに魔が差すだけで、この地球の経済は簡単に壊れてしまう。そんな力を手に入れて、ふーみんがしたいことはなに?」

「魔法を教えてくれたのは他ならぬ君じゃないか」と苦笑いを浮かべながら、文成は答える。

「世界の平和のために役立つことをしたい。僕はそのために雪河智絵を生きたのだから」

「それでいいの?間違ったことに本当に使わない?」

「使わないよ。私利私欲のために使うつもりも、誰か特定の個人のために使うつもりもない」

「本当にそんなことってできる?」

「そう言われてしまうと困るな……。魔法を極力使わないようにすればいいのかい?」

文成からの問いかけに、少女は力強く首を横に振る。

「違う。ふーみん、何かふーみんにとってとても大きなことを隠してる。きっと怒りに似た何かを。その何かを知りたいの」

大きな、とても大きなため息をついてから、文成は口を開く。

「この世に僕の分からないことがあることが納得いかない。自慢じゃないが、僕は勉強も運動も芸術も、人並み以上にこなしてきた。それなのに僕の知識も経験も及ばない世界がすぐ目の前にある。そんなことは到底我慢ならない。僕の手の中に魔法というものを収めてしまいたい」

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