Long December Days:9

それだけ言うと、少女は踵を返して帰ろうとする。

「待ってくれ。何もかも頼りきりで申し訳ないが、お手本を見せてくれないだろうか」

文成のその言葉に少女は悪戯っぽい笑顔を浮かべる。

「しょうがないなぁ……ちょっとだけだよ?」

そして、少女が大きく手を広げた次の瞬間、

「転移の術ならこんな感じでどこでも行けるから、使いこなせるようになるとうれしいよね」

文成と少女の二人はネルの河原にいた。少し遠くに川渡しの姿も見える。文成が電脳のセンサーで確認したところ、確かにネルの中である。慌てて文成は電脳通信をオフにする。

「この転移の術はどうやって使うんだ?」

「ネルに行け―って思い浮かべるだけ。かかし出ろーってやると、かかしが出る。――ほら」

目の前に童話の挿絵に出てくるような案山子が現れる。文成は案山子の実物を見るのがこれが初めてだった。

「さぁ、ふーみん。このかかしに思いっきり自分の寂しさをぶつけてみて」

「その、寂しさをぶつけるというのは一体どうやればいいんだ?」

文成のその言葉に「何を言っているか分からない」という表情をする少女。じたばたと手を動かす。

「うん?えーっと。ふーみんは未来を視る時に『こんな未来になれ!』って、やらないの?」

「意識して普段からやったことは一度もない。目に少し力を入れれば未来が視えるんだ」

その言葉を聞いて、少女は腕を組んで首をかしげる。

「そっか、ふーみんはそうやって未来を視るんだ。祝福の子だって話はやっぱり本当だったんだ……」

後半の台詞は、独り言のように小さな声で呟いたので、文成には聞こえなかった。

「わかった。手に鉄砲を持ってるようなイメージを持つことってできる?」

それを聞いて、文成は左手に意識を集中させる。

「そしたら今度はそのイメージの鉄砲をかかしに向けて、弾丸を撃ち出すイメージにして。拳銃の動作をイメージでこなすくらい、ふーみんの頭脳なら簡単でしょ?」

言われたとおりに頭の中で銃を撃つと、文成の手に軽い衝撃が走り、案山子には巨大な針で開けたような穴が開いた。

「そうそう。そんな感じで弾丸を大きくすれば大きな力になるよ」

「……なるほど」

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