Long December Days:8
†
深夜、陽奈はとっくに眠り、ソフィアも電脳休止状態に入った頃、文成はずっと青銅の鍵を指で弄び続けていた。鬼と対峙する際にも持ってきたのだが、結局使い物にはならなかった。
「何か良い使い道でもあるのだろうか……」
そう、独り言をつぶやいたとき、小さな足音が廊下に響いた。当直の看護師が見回りに来る時間でもない。てくてくと、まっすぐ文成のいるところに向かってくる。
「誰だ?」
文成が呼びかけると一度立ち止まり、それからやや軽やかなステップになって再び文成に向かってくる。
「――えへへ、来ちゃった」
文成に青銅の鍵を渡した、あの時の少女だった。
「バレずに歩けると思ってたのにやっぱり無理だった。もうちょっと力を抜いて、油断しながら生きててもバチは当たらないと思うのよ。ねぇ、ちーちゃん?それとも、気をつかってふーみんって呼んだ方がいい?」
そう言って、鈴が転がるように笑う少女。
「……君は、僕の何を知ってるんだ」
「私ね、あなたの未来視の、もっとすごくて便利な力を使えるの。だから、私の前で隠し事はしないでね?」
文成と名乗ることだと気づいた文成は、少女に言い返す。
「『文成』は、隠し事に入らないだろう」
「そうね、別段隠してるわけじゃないかな。じゃあ、別にいいや。青銅の鍵の使い方を教えに来たの、特別にね。だってあんな小物に手こずってるようじゃこの先思いやられるもん」
「あの鬼は、君から見ると小物なのか?爆弾で消し飛ばさない限りは不死身なように見えたぞ」
「甘いなぁ、ふーみんは。科学で勝ち目のないものが相手なら、魔法を使えばいいのよ」
「ねぇ、ふーみん」と、少女は文成に呼びかける。
「ふーみん、浦島太郎になる夢をずっと見るから、夜寝てないでしょ。青銅の鍵のおかげでサクくんが出てきてからは余計に寂しいし」
文成の体が強張る、思わず槍に手を伸ばす文成に、そっと少女は微笑みかける。
「その寂しい気持ちを大きなトンカチみたいに、相手にがっつーんってぶつけてやるの。死ぬほど寂しくなれー!って。それが魔法の使い方。わかった?」
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