ウケモチシステム:21

一瞬世界が暗転して、文成は図書館のような場所で目を覚ました。

『――文成。文成!しっかりして!』

文成はソフィアの不安そうな声な声を聞いて返事をする。

「大丈夫。なんともない」

『よかった。いきなり通信が途絶えるから心配しちゃった。アスクレピオスにいるままなら安心ね』

「ソフィー。僕は今アスクレピオスにいるのかい?」

『うん。私のメンテナンスユニットのある部屋から一歩も動いてない。どうかしたの?』

文成は周囲を見渡してみるが、アスクレピオスにこんなところはない。電脳を確かめてみるがハッキングされた痕跡もなし。やはりソフィアが確認したのと同様に、アスクレピオスの中に文成がいることになっている。

「……いや、どうもしてない。無事だ。どうやら魔法は使えなかったみたいだな」

その時、背後に気配を感じて文成は振り向いた。すると、見覚えのない少女が立っていた。ゴシックロリータのドレスに身を包んだ、金髪のヨーロッパ系の顔である。このまま街を歩けば10人が10人振り向くような顔立ちに悪戯っぽい笑みを浮かべている。その少女は唇に手を当てて、「しゃべってはいけない」と文成に仕草で示した。そして、少女は文成の手を両手で持って左手の指先で文成の手の甲をリズミカルに叩いている。文成はそのリズムがモールス信号だと気がついた。(また古風なものを使って……)と思いつつ少女の手を握って微笑みかける。意図が伝わったことが分かり、少女はにっこりとほほ笑んだ。改めて少女がモールス信号を送ってくるので、文成は意識を集中させた。

(心配しないで。プレゼントを渡しに来たの。とても大事なプレゼント。魔法が使えるようになる、とても素敵な“青銅の鍵”)

それに対し、文成もモールス信号を送る。

(青銅の鍵というのは何?君は一体だれ?)

(ひみつ。ソフィアにも言っちゃだめ。あの子は絶対私のことが嫌いだから)

そこまで文成に伝えると、少女はポケットから青銅の鍵を出した。少女の小さな掌に収まるほどの、小さな小さなカギだ。少女に似つかわしい古風なデザインである。南京錠を開けるような形状である以上、扉を開けるものではないらしい。今時南京錠など、装飾品以上の用途は存在しない。

(いってらっしゃい、良い旅を)

再び文成の視界が暗転する。

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