ウケモチシステム:8

†12月1日夜 アスクレピオス内ソフィアの部屋

ソフィアが文成と陽奈の前に座っている。依然として金髪の少女は目を覚まさないが、状態は安定しており直に目を覚ますだろうということで、ソフィアが経過報告のために生体義体用メンテナンスポッドの部屋の前で見張りをしていた二人を呼んだのだった。

「電脳内の情報が何かないかしらと思って電脳を調べてみたんだけれど、有益な情報は得られていないの。倫理的に問題ありの実験記録ならいっぱい出てきたけど、観る?」

二人とも首を横に振る。

「そうよね。いくら完全にゼロから創られたNEだからって、流石にちょっと嫌になるわよね……」

「そんなことまで分かるんですか?」

陽奈からの質問に、にやりと笑ってソフィアが答える。

「どれだけ電脳記憶を消そうが、完全に壊さない限りは電脳にしたときからの記憶を全て再現することができるのよ、私にかかればね。たとえば、文成なんか私と会う前から電脳だったんだからそのときの記憶から知ってるわよ?話がそれたわね。件の少女――研究所に飾ってあった百合の花をよく見ていたようだから仮にリリーとでも名付けましょうか――には電脳を造っているときからの記憶があった。今の義体に搭載されていく過程もね。そんなものが存在するのに、電脳であったら登録しなければならない幼少期の――言い換えれば電脳ではなかったときの――記憶が全くない。以上のことから言えるのはつまり、彼女は研究所で生まれた上に、生まれたときから今の体のままだということ。もう一つおまけで付け足すとすれば、造られてから精々数年ってところね。NEを使った人体実験だなんて、いまどき珍しいことじゃないだろうけど立派な犯罪よ。そんなにウケモチシステムは優秀なものなのかしらね……」

「ソフィー。ウケモチシステムを分解することはできないのか?」

「無理ではないだろうけれどかなり難しい。アスクレピオスのメンテナンスユニットじゃ分解も修理もできないマイナーな会社の部品が使われているのよ。今取り寄せてるから明後日には届くと思うけれど、それまでウケモチシステムから生産される食糧は垂れ流しね。食料の方は一応毒性の検査と遺伝子検査をしているから結果待ち。リリーが目を覚ますまで、できることは特にないわね」

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