Wraith:15

「これからお二人には冥界ネルに行っていただきます。そして、私の指示に従って姉を苦しめている悪魔の説得ないし殺害をお願いします。しかし、かの地はこの世から隔絶されており、短距離電脳通信をはじめとした各種通信端末は圏外になります。より詳しく説明すると、かの地の中でしか短距離電脳通信は届きません。携帯電話の類は全くの圏外になります。さらに、短距離電脳通信だけの問題なんですが、通信をオープンチャンネルにしておくことはお勧めできません。遥か遠くからの死霊の声を拾います。死霊の声はかなりの精神負荷をかけるものですから、まともに聞いた場合には発狂してしまうこともあるほどです。ですから、今の内に短距離電脳通信はオフラインにしておいてください。安全のためです」

「通信機器を何も持たない状態で、楓さんの指示はどうやって聞くんですか」

陽奈の疑問に、楓がにやりと笑う。

「雨岡の魔法の『魂の共振』というものを使います」

一息置いて、陽奈と文成の頭の中に楓の声が響く。あたかも短距離電脳通信のように。

『このように、相手の魂に直接声を伝える魔法があるんです。これならばあの世とこの世ほどの距離があったとしても問題ありません。これは伝える相手がどこにいても聞こえるものですから。ちなみにこれは余談ですが、ソフィアさんの通信網にも引っかからないものですよ。私たち霊媒師の陰口の味方です』

「こちらからの声はどうやって伝えるんですか?」

今度は文成が質問をする。

「これを使います」

楓は再び口を使って話しながら、人差し指ほどのサイズの木製の小さな剣を二人に渡した。首にかけるのにちょうどいい程度の紐が通されている。かなりの年代物のようで、細かい傷が無数についている。

「それはあの世の通行許可証兼『魂の共振』の通信端末兼あの世にとらわれずに済む帰りの切符兼私があなたたち二人の居場所を知るためのアンテナです。雨岡以外には持っていない『剣の護符』というものです。通信端末のように話しかけてくれれば私に聞こえます。なくしてしまうと帰れないので、肌身離さず持っていてください」

楓から渡されたそれを、陽奈は首にかけ、文成は左手首に巻き付けた。

「ブンセー、なんで手首に巻いたの?」

「戦闘になったとしても切られにくいんだ。経験上ね」

「そんなに激しい戦闘になるかな」

「念のためさ。ハルは首にかけておくといい。戦う時になったら僕がやるよ」

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