Wraith:14

客間に通されて、文成は自己紹介をした。自分が妖怪や幽霊を専門とした探偵をしていること。妖怪が関わっていなくとも困っている人たちを助けて生計を立てていること。その間、ずっとツバキは黙っていた。何かを考え込んでいる様子だった。

「今私が関わっている事件は、私と一緒にいるツバキという幽霊の少女の過去の調査です。彼女は雨岡さんに関わりがあるようなんです」

そこまで説明して、楓も合点がいった様子になった。

「ツバキ、雨宮椿は私の姉です。14歳の時に悪魔に呪われて、以来意識不明のままずっと私の家で寝ています。それと白雪さん。ひとつ質問をしてもいいですか?」

どこか覚悟を決めた様子の楓。次の質問を未来視して、文成も覚悟を決めた。

「あなたの、白雪文成というお名前は、偽名ですね」

何を言っているんですかブンセーは文成ですよ、と陽奈。しかし文成は重苦しく頷いた。

「はい。やはり魂が視える目には嘘がつけませんね」

それを聞いて陽奈は驚きの声を上げたが、楓はそっと微笑んだ。

「あなたほどの気高さと清らかさを備えた魂は、一度見れば見誤ることなどありません。偽名を使っていらっしゃるのは何か事情がおありなのでしょう。ですが、確かにソフィアさんのご友人だということが間違いないということが分かりました。ずっとあなたのお近くにいましたものね」

右も左も分からない10代そこそこの智絵を公私問わず支えたのはソフィアだ。最初のころなど、ソフィア以外の味方はいなかった。そのことを指して言った言葉だが、陽奈は訝しんでいる。

「楓。私の体はどこ?」

「待って、姉さん。……白雪さん」

どこか苦しそうな様子の楓。次の言葉がなかなか言えない。

「白雪さん、夏山さん。急なお願いで、無理だろうと分かっています。でも、どうか私たち姉妹を助けるためにあなたたちの命を私に預けてくださいませんか」

陽奈と文成はその台詞を聞いて頷き合う。

「分かりました。問題ありません」

「私たち白雪探偵事務所はそのためにあるのですから。どうか私たちに助けさせてください」

「ありがとうございます」

楓は、知らず泣いていた。

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