Wraith:10

「待たせたな、三人とも」

そう言って文成が現れたのは、夜半過ぎであった。

「ぷでぃんぐと少し話がある。ぷでぃんぐ。どこか寝れる場所はあるか?ハルは人間だ。眠った方がいい。朝までかかるだろうからな」

「あるよ。少し待ってくれ」

そう言ったぷでぃんぐの後ろから、自律型MPFが一機現れた。

「そいつの名前はカラメル・XXXIIIと言う。ここの修理、運用の一部を負担させているカラメルたちの一機だ。陽奈とツバキはそいつにくっついて行くといい。いささか古いがベッドがある部屋に着く。何か欲しかったらそいつに言うと良い。ヨルムンガンドの装甲には工場もあるから大体のものは揃う。ヨルムンガンドに数年ぶりの客だからな。丁重にもてなすよ。掃除は行き届いているから安心すると良い」

「ありがとうございます、ぷでぃんぐさん。昔のことが聞けてとても面白かったです。おやすみなさい」

「ありがとうございました、ぷでぃんぐさん。私、絶対頑張って記憶を思い出します」

文成とぷでぃんぐに別れを告げ、カラメルXXXIIIと呼ばれたMPFについていく陽奈とツバキ。

「おやすみ、陽奈、ツバキ」

「おやすみ、二人とも」


そうして、二人が見えなくなって、文成とぷでぃんぐが残された。

「久しぶりだな、智絵」

「それはこっちの台詞、理紗」

「生きていたのならおれに一声くらいかけてくれてもいいじゃないか、かつてのバンドメンバーなのに」

「ソフィーは理紗を含めて、当時のバンドメンバーが生きているだなんて一言も言わないんだ。30年も経ってちゃ当時の仲間が元気でいるとも思いにくいし」

「奴には奴なりの考えもあるんだろうが、そりゃ冷たい話だな、全く。おれはこうしてピンピンしてるってのに。だが智絵も智絵だ。試しに奴に訊いてみたっていいじゃないか」

「今を生きる人たちを少しでも助けるのに忙しくて当時の私の趣味になんて考えが回らなかった」

「ははは。お前らしいや。恵まれた体と声を余すことなく発揮することしか考えてなかった雪河智絵のまんまだ。……30年は長かったぜ。本当に長かった。おれもお前は死んだとばかり思ってた」

「そりゃそうでしょう。ソフィーは誰にも言ってないって言ってたし。懐かしいなぁ」

今のヨルムンガンドだけは確かに30年前に戻っていた。

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