Wraith:9

「はじめまして、私は夏山陽奈と申します。こちらはツバキ」

「はじめまして」

自己紹介をする陽奈をじろじろと眺めるぷでぃんぐ。

「ふむ……白雪文成と言ったかな、彼はどこだ?」

「彼は今別件で出ています。こちらには来られません」

「ほほう。生憎だがおれは白雪文成以外とは話をしたくないんだ。そこで陽奈。君にお願いなんだが彼に電話をしてもらえるかい。そしてその時に次のことを言ってほしいんだ。『隆康たかやす、隆起の隆に健康の康で隆康、脳の助けは借りていない』とね。おれからの伝言だという風に言ってくれて構わない。これを済ませてくれたらそうだな、きっとおれは君と過去の話をするか白雪文成の関わった事件の話を君から聞いて彼の来るまでの時間をつぶすことになるだろう。お願いしていいかな」

そういいながら訳知り顔で笑うぷでぃんぐ。怪訝そうな顔をしながらも陽奈はその提案に同意した。

「分かりました。電話をかけます」

数コール目で文成は電話に出た。携帯電話の通話をスピーカーモードに切り替える。

『もしもし、ハルか。聞いてくれ。レイスは倒した。少々ひどい目にはあったがね』

電話の向こうで文成の苦笑いが見えるようだった。

「どんな酷い目にあったの?」

『奴が何体にも分身して鈍器だの大きな斧だのを持ち出してきてね。いやぁまったく寿命が縮む思いがしたよ』

そんなことをとても楽しそうな様子で文成は語った。久しぶりに本気が出せてうれしかったのだろう。

『それで、そっちには何かあったかい?』

「ソフィアさんの友達だっていうぷでぃんぐさんのところに来てる。それでブンセーに伝言だって」

『伝言?』

「『隆康たかやす、隆起の隆に健康の康で隆康』」

最後まで言い切らない内に文成が割り込んだ。

『それ、脳の助けは借りたと言っていたか』

「ううん、」

陽奈が「なんで私の次の台詞を知ってるの」まで言う前に更に文成が割り込んだ。

『今すぐそっちへ向かう。それまで絶対にぷでぃんぐ氏のそばから離れてはいけない。そうだな、僕の昔の話を聞くか今の僕の話でもしていてくれ。かなりの暇つぶしにはなる。あと絶対にソフィーに今の会話を言ったらダメだ。何があっても墓まで持っていくこと。いいね?』

怒ったような厳しい声音でそれだけ告げると、陽奈が何か言う隙もなく文成は電話を切ってしまった。

「ほらな?おれの言った通りだろ?」

頭の中での疑問符が外に漏れ出そうな陽奈と、にっこりと笑うぷでぃんぐが、文成の切った電話の前に残された。

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