Wraith:8

MPFとは多目的装甲の略称。要のところは機械で動く足のついた装甲板であればMPFと呼ばれる。それは言い換えれば鉄の塊を服にしたものだの、ロボットだのだけではなく「大地そのものを装甲とみなして足をつけたもの」もMPFになる。陽奈もそのことを頭では理解できている。都市型MPFヨルムンガンドは立派なMPFだ。

「たまげた……」

噂には聞いていた都市型MPFが実在していて、近隣住民ならだれもが知っている怪奇都市がそれで、しかも陽奈とツバキは今その内部にいる。二人が肝を潰すのも無理からぬことだ。

「すごいところですよね、ここ……」

「そうだ、ツバキちゃんはここ見て何か思い出すことはない?今ここは完全に地下道みたいなところだけど、こういう大きなところに住んでいたとか前にもこういうところに来た事があるとか」

「いえ、特にはないですね」

「そっかー残念。何かあれば良かったんだけど。あ、そこパイプが床から出てて危ない。気をつけてね」

「足ないから転ばないですけど」

「それもそうか。結構歩いたけどどこまで続くんだろうね」

「見た目も金属製の壁とパイプばっかりで変化もバリエーションもないですもんね」

「こんなところに暮らしてる人間とこれから話すのか。ちゃんとした人かな……」

「そうだといいですけどね……」

都市伝説に生きる人間が真人間だとはあまり考えにくい。話が全く通じなかった場合手がかりにはならない。ふりだしに戻るかもしれないと考えると気が重かった。


数分後、開けた場所に出た。

「はじめまして、ツバキ、陽奈。話はソフィアから聞いているよ。おれはぷでぃんぐ。気軽にプリンさんとでも呼んでくれ」

ぷでぃんぐは妙齢の女性の外見だった。身長は170の後半ほど。黒い髪を金髪に染めているが、前に染めてからかなりの間があいているようだ。MPF運転用のツナギに身を包み、優しく笑う姿は人懐っこく見える。だが、見た目に騙されてはいけない。彼女はImprovedなのだ。30年前から生きてもいる。実際のところかなりの老婆であるのは間違いないだろうし、それどころか本来の性別は男性かもしれない。油断しないように陽奈は気を引き締める。

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