Wraith:7

†10月31日昼 都内某所、別名「ミドガルズオルム」

「なんでこんなところにいるんだろう、私……」

ここは見渡す限り広がる機械の都市。

話は数時間前にさかのぼる。


陽奈はツバキの過去について調査をしつつ、ツバキ本人にも何か思い出したことはないか聞いていた。その時にとある興味を引く言葉が出てきたのだ。

「ホワイト親衛隊」

調べてみると、30年前に存在していたネットアイドルのファンクラブの名前であった。どうやらそれがツバキの事件に大きく関与していたらしい。他にも「ツバキ」という名前が被害者ないし遺族の名前になっているここ十年の死亡事故を確認もしたが、「ホワイト親衛隊」を除いて有益な情報は得られなかった。

ホワイト親衛隊。ネットアイドルホワイト。かつてソフィア自身がそのホワイトのファンであったこともあって、多くの情報が手に入った。その中でも特に、ファンの数は少なくてもかなり熱狂的なファンが多数を占めていたこと、30年前に突如としてホワイトは消息不明になったことが目を引いた。30年前にホワイトは事故死してしまって、その亡霊レイスがツバキとして突如今の時代によみがえった。ありえない話ではない。実際に30年前のホワイトが消息不明になった日のごく近くにツバキという少女が死んでしまった記録があった。ソフィアはあり得ないことだと否定したが、ソフィア本人もホワイトが誰であるか知らないと言う。となれば確認する価値はあるということになる。

ソフィアさんの友人で同じホワイト親衛隊の隊員がいるということを聞き、当時のことを少しでも知れるなら是非にと陽奈が居場所を聞いた結果、このミドガルズオルムにいることが分かった。

「とにかく行けば分かる」

その言葉を聞いて、ミドガルズオルムに陽奈はツバキを連れてやって来た。

やって来たはいいものの。

「いったいどこにいるの……?」

ここミドガルズオルムは言うなれば巨大な都市の形をした生命体。「動く都市」なのである。昨日町はずれにあったビルが今日は都市内の中心部にある。そんなことは日常茶飯事だ。近隣住民は怖がって誰一人近づこうとはしない。現代になっても人を食う化け物まで出るという話が出るほどなのだ。そんな辺鄙なおかしいところのどこへ「行けば分かる」と言うのか。


『ここさ」

足元から突如として声がした。

「敵襲!?」

陽奈は月影を抜刀して身構える。

『違う違う。ソフィアから聞いてるだろ?おれが【ぷでぃんぐ】だ』

低い女性の声。話に聞いたImprovedのハンドルネーム。

「どこにいるんですか」

『足元。厳密には違うが』

「姿を現してもらえませんか」

『いいよ。ちょっと待ってくれ』

そう声が言うと、ミドガルズオルムは大きく身じろぎをした。

「え?…………えぇ!?」

陽奈がミドガルズオルムとは「動く都市」なのではなく「都市型MPF」だということを知るのはこの数分後のこととなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る