Wraith:6

†10月31日昼

「さて、と。ここら辺にレイスが隠れているという話だったな」

本当は姿を現す夜まで待ちたいところだが、人間を盾に使われると厄介だ。それに、今は一分一秒でも時間が欲しい。

刃先を準備する。探知機と一緒に貰った対幽霊用の刃先。普段の刃先をねじって外し、同じくねじって刃先をはめる。

「よし、問題なし」

こういうことをしていると、あの時護身術を習うにあたって槍の使い方を覚えたのは正解だったと文成は思う。剣術では巨大なペン先をそのまま武器にすることはできないし、銃では弾丸を造るのにとんでもない手間と運用のための金がかかる。それに比較して槍のなんと手軽なことか。肝心の体の方も未来視と、今となっては義体がいくらでも補ってくれる。負ける気がしない。今の文成を支えるものは、とめどなくあふれてくる自信だった。


「迷える子羊よ。私は導くもの。あなたを歓迎します」

レイスの側からどうどうと現れてくれて、文成は内心舌なめずりをした。

「それはどうも。あなたの救いに少しばかり質問がありまして。お時間頂いてもよろしいですかね」

満足げにレイスは語り出した。

「過去を見よ。過去とは救いである。過去を見れば現在と未来に目を向ける必要などなくなる。過去は可能性である。過去に身をゆだねよ。過去は寛大である。未来は厳格である。命すべては過去なくして生きられぬ。過去はそのためにある。過去を見よ。変えられぬさだめはしかし、過去に目を向ければ見る必要はなくなる。過去は救いである。過去は」

「あーいや。もういいや。壊れたオルゴールじゃあるまいし過去過去過去過去いい加減しつこい。ひとつ言わせてもらうとね。過去なんか見なくたって。過去にこだわるような真似をしなくたって!」

文成はそう言いながら槍を構える。空中に漂うレイスの心臓を一突きにできるように構えて、跳躍。

「人間は!」

レイスに突き刺す。

「生きられるのよ!」

えぐるようにねじる。

「はい終わり。次」

「愚かなるものよ。私が一人だとなぜ思った」

「次ってそういう意味じゃなかったんだけどな……」

思わず脱力する文成。

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