白雪文成の事件簿:妖刀月影

白雪文成と妖刀:1

†新暦40年10月8日 朝

「ハル、今日の僕は義体のメンテナンスがある。君はどうする?」

「困ってる人がいないか傷痍軍人恩給施設に顔を出すつもり」

「じゃあ恩給施設で一緒にお昼にしよう。迎えに行く」

「了解」


†同日 昼

「一緒にお昼」とは言ってもNEは食事を摂ることができない。消化機能は搭載されていないのだ。確かに食事機能自体を搭載することはできるのだが、ほぼ毎日消化器に当たる部分をメンテナンスして、必要な場合には交換をしなければならない。当然、そんなことをすれば費用もかさむ。だからあくまで医療用で、しかも主治医からの要請が無い限りはかなりの費用がかさむようにできている。主治医からの要請があった場合でさえも、医療費だけで新しい義体を買っておつりが出るほどの医療費がかかることもある。だから、よほどのことが無い限りは誰もやらないし、僕もやっていない。だから、僕はハルの食事中は読書をすることに決めている。西暦時代の本だ。「暇つぶし」にはちょうどいい。

「ねぇブンセー。刀が欲しいって言ったらソフィアさんくれるかな」

「そりゃあくれるだろうね」

「NE用の分厚い奴だよね」

「そりゃあそうだろうね。彼女が融通できる品物はNE用のパーツしかないもの。それ以外のものも頼めば調達してくれるとは思うけれど、迷惑はかけてしまうだろうね」

現在、人間がNEと戦う事態は起こりえないので、武器――特に、刃物や鈍器――は需要がない。そういう事態が起こったとしても人間よりも力の強いNEや強化外骨格MPFが対処をする。そのため、武器は重く厚く頑丈なものになってしまう。NEが使う刃物は料理用のものを除き、人間のものよりも重く、分厚くできている。それでも取り回すことができるし、何より対NEという点で考えると、関節にしても骨にしても人間よりもはるかに頑丈にできているNEを傷つけるために手っ取り早いのは重くすることだ。重くするために刃物の厚さを厚くしてもNEなら扱いきれる。だから僕の槍にしても人間のそれよりはかなりの厚みと重さがある。

「普通の、でも折れたり欠けたりしない刀って手に入らないものかな」

「それはつまり妖刀が欲しいという旨の発言と受け取っていいのかい」

妖刀ならその要望にも応えることができるだろう。普通、”妖刀”などという選択肢は一番先に出て来たりはしない。だが、ついさっき聞いたばかりだ。

「妖刀?妖刀は折れたり欠けたりしないの?」

「そうだよ。さっきメンテナンス中に面白い話を聞いたんだ」

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