白雪文成最初の事件:9

『ハルナ、今はあなたの電脳に直接同期している。どうしても教えておかないといけないことがある。何も返事しないで聞いてちょうだい』

『これから敵陣に乗り込むのだけれど、あなたは私の電脳に同期するだけで、家に入らないで欲しい。犯人の狙いは私を驚かせ、怒らせることなの。だからそうならないために、あなたを連れてきたの。でも、あなたの安全のために中に入ってはいけない。犯人は部外者を巻き込むことを何とも思っていないから。それというのも、犯人はアスクレピオスのことまで監視していて、私を罠にかけるためなら手段を選ばないようなクソ野郎なの。犯人をまだ特定してはいないのけれど、それだけはよく知っている。わかったら頷いて』

『ありがとう。じゃあ、行ってくるわ』


少年のような、はたまた老人のような、男とも女ともつかない今時古びていて誰も使わないような合成音声だった。

「やぁ、ソフィア。こうして会うのは8度めだね。何度君を見ても飽きないよ。偽善者ソフィア。悪なる女神ソフィア。君の技術は所詮人の業だ。神の御業ではない。そう、たとえば僕のような神から見れば君の業はお遊戯もいいところなのさ。ソフィア。君は智絵をドイツに行かせて僕に会わせない選択をした。その点は実に正しい行為であると言えよう。これから僕がするのは君の偽善の話だ。そんな話を智絵に聞かせてしまっては折角の友情も破綻しようというものだ。智絵の、死出の旅路の幸も失せようというものさ。そんなあさましい選択をした君を僕は精いっぱい称賛したい。覗き見る者、ソフィア。君の観測するはるか外側から僕ら偽神ぎしんは君たちを観測している。君のする苦し紛れの逃げの一手さえもお見通しというわけさ。ああそうだ。君が定命の者を手元に置いて愛でるのはあまりにもくだらない。弱さの表れだ。どれだけ否定しても、一人ぼっちの偽神戦争おろかなあらそいであることは変わらない。君も僕も命などというくだらないものから外れてしまった何かものだ。争いは同レベル同士でしか発生しないとはよく言ったものだと思わないかい。僕と万に一つ張り合える可能性がありながら、定命をそこまで愛でるとは、ソフィア。こんな話よりも定命の一人を大事にしたがる愚鈍が君だ。ああそうだ。コニーは帰してあげるよ。約束しよう。元からどうでもいいものだしね。ソフィア。早く君がネルこっちに来るのを待っているよ。……本音を言うと今すぐ来てほしいくらいだよ。この伝言が終わると同時に、その部屋は吹き飛ぶよ」



ソフィアさんがアパートの一室に消えて数分後、その部屋が爆発した。

「ソフィアさん!!」

「大丈夫。私はここよ」

何事もなかったかのように姿を現すソフィアさん。

「大丈夫ですか!?なんか変態に絡まれてましたけど」

「大丈夫。でもやっぱり変態だと思うよね」

「ええ、思います」

「そう、ドがつく変態。ウザったいったらありゃしない。さっさとくたばってくれないものかしら」

口汚くさっきの声の主を罵る。

「あははっ」

「どうしたの、ハルナ」

「いえ、そんな風に話すソフィアさんを初めて見て。美人なのにそういうところあるんだなぁ~って」

「そりゃあ私はNever Endsにんげんだもの。そういうときくらいあるものよ」

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