白雪文成最初の事件:8

†10月1日昼、ドイツ、ミュンヒェン郊外

「ねぇソフィー。ひとつ質問があるんだけれど」

「なに?さっき日本の方と同期したから何でも聞いて」

「じゃあ遠慮なく。わざわざ僕そのものをドイツに運んできた目的を知りたい。僕の未来視が必要だとしても、僕のパーソナルデータを君は持っている上に、僕の義体を準備することにさえも君はさしたる時間も手間も必要とはしないだろう。それなら最初から僕自身ではなく、僕の義体と僕のパーソナルデータがあればそれでいい。なぜ僕をドイツに飛ばした?」

「私の知っている未来だとあなたが日本で受ける影響のせいで、取り返しのつかないことになるから」

「は?」

「詳しいことは言っても分からないと思うけれど、私はなんとしてもあなたをアリエルツィア=リッケルハイムという女性に会わせなければならないの。もっと時間が経った後でね。そのためには今あなたをネルに送る殺すわけにはいかないの」

「何を言っているんだ?」

私たちにんげん偽神ぎしん戦争を生き残るため」

「偽神は人間のことでは?」

「違う。あなたの知ってる偽神戦争のことじゃない。こんなこと、あなたに言っても信じられないと思うけれど、本来の私、NEではない私は、本当は人間ではなくて女神なのよ。女神の一人として、友人であるあなたに可能な限り幸福な手段をとりたいの。そのために今回はあなた自身を容疑者のところへ派遣することで、日本から遠ざけたかったの」

「何のことかは分からないが、ソフィー、君には何か考えがあって、何かを為そうとしているんだね」

一度深呼吸をして、僕はソフィーに言った。

「では早速容疑者のことを聞かせてくれ」

「ありがとう。あなたには何度感謝しても足りないくらいだわ」


「ここね。ここの住人が容疑者候補。未来視使えばあっという間に終わるでしょ。早く片付けて帰った方が良いみたい。ついさっきから日本の私と連絡がつかなくなっている」

「了解」


「エーリッヒ=ユーデットという人はご在宅でしょうか」

「それは私だが、何か用かね」

「用というほど大きなことはございません。ただひとつだけご忠告を」

「なんだね」

「人間全てを恨む人間NEになり果てる前に、カウンセリングや気晴らしの類を見つけるんだったな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る