白雪文成最初の事件:6

†新暦40年9月30日

コニー誘拐の件は今日も特に進展が見られない。ソフィーが本来の仕事の合間に調査をしてはいるが、思うようには捗らない。したがって、当然のことと言えば当然のことなのだが、手持無沙汰である。忙しくない分、かなりの時間を鍛錬に費やせるのは結構なことであるが。オマケだが、義体のメンテナンスはソフィーに融通してもらえるので優先的に最先端の物を使えて嬉しい。

探偵という職業は思索と調査が主な仕事だ。今のところは調査がないのであるから必然思索をするしかない。今のうちにこの事件で残りの気になっている謎をまとめておこう。

一つ。コニーのパーソナルデータはどこに行ってしまったのか。これは完全に憶測に過ぎないのだが、”ソフィー・システムの目”を用心した上で彼女の監視をかいくぐる知性と技術がある人間が、簡単に尻尾を掴ませるとは思えない。ソフィーがもうすぐ見つけるであろう人間は犯人の「盾」に過ぎまいと言い換えてもいい。となると、パーソナルデータとACシステムは別々の人間が所有しているということになるだろう。その場合、捕らえた人間はおそらく、パーソナルデータを所持してはいないと思われる。僕が犯人でも早いうちに処分したいと考えるであろうが、処分した場合間違いなく”ソフィー・システムの目”に引っかかる。だから「私の女の勘」が告げている。犯人は何かしらの理由でパーソナルデータを所有し続けていると。私はそう焦っていない。なんとかなる。

二つ。犯人はどういった人物なのか。男なのか女なのか、はたまた大人なのか子供なのか老人なのか、国籍はどこなのか。欧州の方は荒れていると聞くし、南半球もNEが支配権を握っている。従って本命はやはり日本をはじめとしたアジア方面になるのだが、NEでない人間がソフィーに敵うだろうか。やはりNEであると考えるのが自然ではないか。

三つ。これは犯人とは関係ないのだが、ハルは命でも狙われているのだろうか。それとも恐ろしいほどに運がないのだろうか。今日も死ぬような目に遭っていた。しかも本人はさして驚いた様子もない。今まで16年もの間、どうやって生きのびてきたのだろう。大物なのかバカなのか。

妄言と悪口はここまでにしておこう。備えた者に幸いあり、だ。今日も元気に鍛錬に励むとしよう。

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